「愛怨峡」は、信州の宿屋で働く女性おふみの波乱に満ちた人生を描いた作品です。溝口健二監督は、信州の風景や東京の裏町の生活様式を対比させながら、おふみの生き様を鮮やかに描き出しています。カメラワークは写実的で、雰囲気描写も現実味溢れるものとなっています。しかし、作品全体を貫くような深みと余韻は、少し物足りなさを感じます。おふみの感情表現に、深みや奥行きが足りないため、場面転換時にぎこちなさを感じてしまうのです。特に、ラストシーンのおふみが再び女万歳師となる場面では、彼女の心の複雑な感情が、充分に表現しきれていないように思えます。監督は、より深みのある演出で、観客に感動と余韻を残すことができたのではないでしょうか。