明治中期の東京を舞台に、こがらしが吹き荒れる晩秋の風景が鮮やかに描かれる。少年時代の「私」は、物干竿が風で鳴る音を初めて聞き、こがらしの正体に気づいた瞬間を鮮明に記憶している。やがて、近所の寺の墓地で行われるキリスト教の葬列を目の当たりにし、こがらしの冷たさの中に、死を予感させるような異様な雰囲気を感じ取る。大人になった「私」は、昔の中国の盗賊の物語を読みながら、少年時代に体験したこがらしの記憶を呼び起こす。そして、大学時代には、東京生まれの学生仲間たちが、こがらしが吹く日には決まって早く帰りたがる様子に、幼い頃からこがらしに抱いていた奇妙な感覚を再び思い出す。