蒲原有明が鴎外について語るエッセイです。鴎外との個人的な接触は殆どなく、その影が離れなかったのは、鴎外の言葉が常に頭の中にあり、それが語り継がれてきたからだと述べています。鴎外の精神は、節制、中庸、清潔、そしてファナチックな行為への嫌悪といった特徴を通じて、蒲原有明の生活に影響を与えてきたといいます。鴎外は、科学を信頼し、進化論を支持していた一方、ロマンチック思想にも触れていく用意を持っていたとも語り、その創作に一貫して猟奇の精神が流れていると分析します。鴎外の翻訳についても言及し、ポオやホフマンの犯罪小説を選んだのは、知的犯人の心理の追求への興味からだと考察しています。最後に、晩年の鴎外の写真をながめながら、その謎めいた深みと、彼の作品が持つ永遠の若さを指摘し、鴎外の作品を読み解くことの難しさ、そして奥深さを示唆しています。