ある雨の日に、窓から外を眺めていた「私」は、笠を着て蓑を着た、背の高い男が橋を渡っていくのを見ます。その男は「猪《いぬしし》の王様《わうさま》」に見え、「私」は子供の頃、母様《おつかさん》と一緒にそう呼んでいたことを思い出します。母様《おつかさん》は、橋の番小屋《ばんごや》で橋銭《はしせん》を受け取り、そのお金で「私」と二人暮らしをしていました。橋は、市を少し離れた、松の木が並ぶ堤防に架かっており、その下を様々な人々が行き交っていました。春には遊山客、夏には納涼客、秋には茸狩《たけがり》客と、一年を通して賑わう橋でした。