岡倉天心の著作が、岡倉一雄によって『岡倉天心全集』として刊行され始めた。和辻哲郎は、この企画を喜びつつ、自身の学生時代に岡倉天心から受けた「東洋巧芸史」の講義を回想する。講義は、単なる美術史的知識の伝達ではなく、作品を見る視点を教え、味わい方を伝授するものであった。例えば、シナの玉についての講義では、先生は「触覚」で味わうことを説き、奈良の薬師寺の三尊については、その「肌の滑らかさ」を、触感を通して見てほしいと熱心に語った。和辻は、岡倉天心から様々な「味」を教えられたと述べ、その講義から受けた強烈な印象を、鮮やかに描写する。