紀州徳川家の年寄役を務めていた佐野藤右衛門は、老齢を理由に御勝手がかりの役目を解かれ、藩譜編纂のかかりを命じられます。しかし、藤右衛門の心は、重病で亡くなる妻のやす女への思いで満たされ、仕事に集中できませんでした。やす女の死後、藤右衛門は妻の遺品を整理する中で、やす女が普段着としていた粗末な木綿の衣類を見つけます。それは、藤右衛門が想像していた千石の家の主婦の持ち物とはかけ離れたものでした。やす女は、藤右衛門の知らないところで、質素な暮らしを続け、家計を支え、家族のために尽くしていたのです。遺品を通して、藤右衛門は初めて妻の真の姿に気づき、深い後悔と同時に、新たな感動に包まれます。