いちばん上の娘は、ひたいのまんなかに、目がひとつしかありませんでした。それで、みんなから、ひとつ目、とよばれていました。
二番めの娘は、ふつうの人間とおなじように、ふたつの目をもっていました。それで、ふたつ目、とよばれていました。
いちばん下の娘は、目が三つありました。それで、三つ目、とよばれていました。この娘の三番めの目は、やっぱり、ひたいのまんなかにくっついていました。
さて、ふたつ目だけは、ちょっと見たところ、ほかの人間とすこしもかわりありません。それで、きょうだいからも母親からも、きらわれていました。みんなは、ふたつ目に向かって、しょっちゅう、こういうのです。
「おまえは、なんだい。目がふたつあって、まるで、いやしい人間どもとおんなじじゃないの。あたしたちのなかまじゃないよ。」
こういっては、みんなで、ふたつ目をいじめるのです。着るものも、ひどい服しかやりませんし、食べるものも、自分たちの食べのこしたものしか、やらないのです。こうして、みんなは、ふたつ目にひどいことばかりしました。
あるときのことです。ふたつ目は、野原にでてやぎの番をするように、いいつかりました。けれども、おなかがすいてたまりません。むりもないのです。姉さんも妹も、ほんのわずかの食べものしかやらないのですからね。
ふたつ目は畑の畦にすわって、しくしく 泣きだしました。ふたつの目から、涙があふれてきました。やがて、涙はふたつの小川となって、ながれ落ちました。泣き悲しみながら、ふたつ目は、ふと 目をあげてみました。すると、すぐそばに、ひとりの女の人が立っています。
「ふたつ目や。おまえ、なにを泣いているの。」と、その女の人がたずねました。
ふたつ目は答えました。
「だって、泣かずにはいられませんもの。あたしはふつうの人間とおなじように、目がふたつあります。それで、姉さんからも妹からも、お母さんからもきらわれて、みんなにいじめられてばかりいるんです。それに、着るものもお古しかもらえませんし、食べるものだって、みんなの食べのこしたものしかもらえないんです。今日なんて、あんまりすこしでしたから、おなかがすいてすいてたまらないんです。」
すると、その女の人がいいました。
「ふたつ目や、涙をおふきなさい。わたくしがいいことを教えてあげますから、これからは、そんなに、おなかがすいてたまらないようなことはないでしょう。
おまえのやぎに、こういいなさい。『メエメエ やぎさん、テーブルだして』。
そうすれば、きれいな布のかかったテーブルが、すーっと、おまえのまえにでてきますよ。テーブルの上には、びっくりするほどおいしいごちそうが、たくさんたくさん、ならんでいます。おまえは、それをおなかいっぱい、食べていいんですよ。そして、食べ終わったら、『メエメエ やぎさん、テーブルさげて』と、いいなさい。
そうすれば、テーブルは、すーっと消えてなくなりますからね。」
こういい終わると、女の人の姿は消えてしまいました。
(あの女の人のいったことは、ほんとかしら。まあ、いいわ。ためしてみよう。だって、おなかがすいてたまらないんですもの。)
ふたつ目はこう考えて、女の人のいったとおりに、いってみました。
「メエメエ やぎさん、テーブルだして」
と、どうでしょう。こう、いい終わるかいい終わらないうちに、もう、白い布のかかったテーブルが、目のまえにあらわれたではありませんか。テーブルの上には一枚のお皿がのっていて、それに、ナイフと、フォークと、銀のスプーンがついています。そして、そのまわりには、見たこともないようなすてきなごちそうが、どっさりならんでいます。そのごちそうはまだあたたかで、ホカホカと湯気をたてています。まるで、たった今、台所からもってきたみたいです。ふたつ目は、自分の知っているお祈りのなかで、
「神さま。いつでも、わたしたちのお客さまになってくださいませ。アーメン。」
という、いちばん短いお祈りを、おおいそぎでとなえました。
そして、さっそく、そのごちそうにかぶりつきました。
おなかがいっぱいになると、ふたつ目は、女の人におそわったとおり、
「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」
と、いいました。
とたんに、テーブルも、それから、テーブルの上にのっていたものも、すーっと消えてしまいました。(まあ、なんて、すてきなお給仕ぶりでしょう。)と、ふたつ目は思いました。もう、うれしくてうれしくて、にこにこしていました。
日が暮れてから、ふたつ目は、やぎをつれて帰ってきました。せともののお皿に、ふたつ目の食事がはいっていました。姉さんと妹がいれておいてくれたのです。でも、今日は、ふたつ目は、それに手をつけませんでした。
あくる日も、ふたつ目は、また、やぎをつれて野原にでました。お弁当にもらってきた、パンのきれっぱしには手をつけないで、そのままにしておきました。
いちどめも、二どめも、姉さんと妹は気がつきませんでした。でも、そういうことがたびたび重なると、とうとう、みんなも気がついて、
「ふたつ目ったら、へんねえ。ごはんにちっとも手をつけないわ。今までは、やったものは、なんでも食べてしまったのに。なにかいいものを見つけて、どこかで食べてるのにちがいないわ。」
と、いいました。
こう思うと、ふたりとも、ほんとうのことを知りたくてなりません。
「そうだわ。ふたつ目が、こんど、やぎを野原につれていくとき、あたしがいっしょについていく。」と、ひとつ目がいいました。
ひとつ目は、よく見はっていて、野原でふたつ目がなにをするか、そしてだれか、飲みものや食べものを、もってきてくれる人がありはしないか、見ていようというのです。
ふたつ目が、いつものように野原にでかけようとすると、ひとつ目がそばによってきて、
「あたしも、野原へいっしょに行くよ。おまえがちゃんとやぎの番をして、草をたくさん食べさせているかどうか、見ていてやるよ。」と、いいました。
けれども、ひとつ目がおなかのなかでなにを考えているかは、ふたつ目には、ちゃんとわかっていました。それで、ふたつ目は、やぎを、たけの高い草むらのなかに追いこんでおいてから、
「ねえ、ひとつ目姉さん。ここにすわりましょうよ。あたし、なにか歌をうたってあげるわ。」
と、いいました。
ひとつ目は腰をおろしました。なれない道を歩いたうえに、お日さまにかんかん照りつけられたので、すっかりくたびれて、ねむくなっていました。ふたつ目は、
「ひとつ目ねえさん、おきてるの。
ひとつ目ねえさん、ねているの」
と、くりかえしくりかえし、うたいました。そのうちに、ひとつ目は、たったひとつしかない目をとじて、ぐうぐう 寝てしまいました。こうなれば、もうなにをしても、見つけられる心配はありません。そこで ふたつ目は、
「メエメエ やぎさん、テーブルだして」
と、いいました。そして、でてきたテーブルの上のごちそうを、おなかいっぱい、食べたり飲んだりしました。それから、
「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」
と、いいました。すると、あっというまに、なにもかも消えてしまいました。
そこで、ふたつ目は、ひとつ目を起こして、いいました。
「ひとつ目姉さん、あなたはやぎの番をするっていってたのに、ねむってしまったのね。これじゃ、やぎはどこへでもにげられるわよ。もう ぼつぼつ、うちへ帰りましょうよ。」
それから、ふたりはうちへ帰りました。ふたつ目は、今日も、お皿には手をつけませんでした。でも、ひとつ目には、ふたつ目がどうしてごはんを食べようとしないのか、わけがわかりません。ですから、ひとつ目は、母親になんにも話すことができませんでした。それで、いいわけをして、
「あたし、野原でねむってしまったの。」と、いいました。
あくる日、母親は、こんどは三つ目にむかって、
「今日は、おまえがいっしょにお行き。ふたつ目が、外でなにか食べるかどうか、そうして、だれか食べものや飲みものをもってきてやるかどうか、よく気をつけて見ているんだよ。こっそり食べたり飲んだりするのに、きまっているんだから。」と、いいました。
そこで、三つ目は、ふたつ目のところへ行って、
「今日は、あたしがいっしょに行くわ。あんたがちゃんとやぎの番をして、草をたくさん食べさせているかどうか、見ているわ。」と、いいました。
けれども、三つ目がおなかのなかで考えていることぐらい、ふたつ目には、ちゃんとわかっています。それで、やぎを、たけの高い草むらのなかに追いこんでおいてから、
「ねえ、三つ目ちゃん。ここにすわろうよ。あたし、なにかうたってあげるわ。」と、いいました。
三つ目は腰をおろしました。うんと歩いたうえに、お日さまに照りつけられたので、すっかりくたびれて、ねむくなっていました。
ふたつ目は、また、このまえとおなじ歌をうたいはじめました。
「三つ目ちゃん、おきてるの」
ところが、そのつぎに、
「三つ目ちゃん、ねているの」
と、うたわなければいけないのに、つい、うっかりして、
「ふたつ目ちゃん、ねているの」
と、うたってしまいました。そして、それを、なんどもなんども、くりかえして、
「三つ目ちゃん、おきてるの。
ふたつ目ちゃん、ねているの」
と、うたいつづけました。
それを聞いているうちに、三つ目の、三つある目のうち、ふたつはまぶたが合わさって、ねむってしまいました。ところが、三番めの目だけは、おまじないをかけられなかったものですから、ねむりませんでした。けれども、三つ目は、この目もつぶって、ねむっているようなふりをしました。でも、それは三つ目のはかりごとだったのです。ほんとうは細く目をあけて、なにもかも、ちゃんと見ていたのでした。
ふたつ目のほうでは、三つ目が、ぐっすり寝てしまったものと思いました。そこで、いつもの文句をとなえました。
「メエメエ やぎさん、テーブルだして」
ふたつ目はテーブルに向かって、すきなだけ、食べたり飲んだりしました。それから、こんどは、テーブルが消えてなくなるように、
「メエメエ やぎさん、テーブルさげて」
と、いいました。
ところが 三つ目は、なにからなにまで、すっかり見ていたのです。それから、ふたつ目は、三つ目のところへ行って、三つ目を起こして、いいました。
「まあ、三つ目ちゃんたら、寝てしまったの。さぞ、いい番ができたでしょうねえ。さあ、もううちへ帰りましょうよ。」
こうして、ふたりは家に帰りました。ふたつ目は、今日もまた、なんにも食べません。それを見て、三つ目は母親にいいました。
「あのなまいきなやつが、どうして、なんにも食べないのかわかったわ。あいつったら、野原へ行くとね、やぎにむかって、『メエメエ やぎさん、テーブルだして』っていうのよ。そうすると、すーっとテーブルがあらわれてくるわ。そのテーブルには、びっくりするくらいのごちそうが、いっぱいならんでるのよ。うちで食べるものなんか、くらべものにもならないわ。
それから、おなかがいっぱいになると、こんどは、『メエメエ やぎさん、テーブルさげて』っていうの。そうすると、みんな消えてなくなっちまうわ。あたし、ちゃあんと見たんだから。
あいつにおまじないをかけられて、ふたつの目はねむったの。でも、いいぐあいに、ひたいのまんなかの目だけは、ねむらずにいたのよ。」
それを聞くと、母親はねたましい気持ちでいっぱいになりました。で、思わず、
「おまえって子は、あたしたちよりも楽をしようってのかい。そんなお楽しみをいつまでもさせるもんか。」と、どなりつけました。
母親は、すぐさま、牛や羊をころす包丁をもってきて、やぎの心臓めがけて、ぐさりとつきさしました。やぎはばったりたおれて、死んでしまいました。それを見ると、ふたつ目は、悲しくて悲しくてたまりません。表にでていって畑の畦にすわって、わあわあ 泣きだしました。
すると、いつかの女の人が、ふいに目のまえにあらわれてきて、
「ふたつ目や。なにを泣いているの。」と、たずねました。
「だって、泣かずにはいられませんもの。あなたの教えてくださった文句をとなえますと、あのやぎさんは、毎日 毎日、おいしいごちそうをだしてくれたんですよ。それなのに、そのやぎさんが、お母さんにころされてしまったんですもの。あたし、これからはまた、おなかがすいてすいて、つらい思いをしなくちゃなりません。」
と、ふたつ目は答えました。すると、女の人がいいました。
「ふたつ目や。それでは、あたしがいいことを教えてあげましょう。姉さんと妹にたのんで、ころされたやぎの腹わたをもらっておいで。そして、それを、門のまえの地面のなかにうめなさい。そうすれば、今に、しあわせになれますよ。」
こういうと、女の人の姿は消えてしまいました。
そこで、ふたつ目はうちに帰ると、姉さんと妹にむかって、
「ねえ、お願い。あたしのやぎのどんなところでもいいから、すこしわけてちょうだい。いいところでなくてもいいわ。腹わただけでいいのよ。」と、いいました。
それを聞くと、姉さんも妹も、にやにやわらって、
「そんなものだけでいいんなら、やるよ。」と、いいました。
こうして、ふたつ目は腹わたをもらいました。そして、夜になると、女の人から教わったとおりに、こっそり門のまえにうずめました。
あくる朝、みんないっしょに起きました。みんなで門の外へでてみますと、これはまた、どうしたというのでしょう。それはそれはふしぎな美しい木が一本、はえているではありませんか。銀の葉がしげっていて、葉のあいだからは、金のりんごが、キラキラ 光っています。きっと、世界じゅうさがしてみても、こんなに美しくて、尊いものはないでしょう。
けれども、こんなところに、こんなりっぱな木が、どうして、ひと晩のうちにはえたのでしょう。だれにも、わけがわかりませんでした。ただ、ふたつ目だけは、その木がやぎの腹わたからはえでたのに、気がつきました。なぜって、その木のはえているところは、ちょうど ふたつ目が、腹わたをうずめたところでしたもの。そのとき、母親がひとつ目に向かって、
「おまえ、ちょっとのぼって、あの実をとってきておくれ。」と、いいました。
ひとつ目は、さっそく、木にのぼっていきました。ところが、その金のりんごをつかもうとすると、枝が、するっと 手からにげていってしまいました。なんどもなんども、やってみましたが、いくらやってもおんなじです。どんなに体をひねってみても、手をのばしてみても、どうしても、りんごはひとつもとれないのです。
そのようすを見ると、母親は、こんどは三つ目に向かって、
「三つ目や。こんどは、おまえがのぼってごらん。おまえなら目が三つもあるから、ひとつ目よりは、まわりがよく見えるだろう。」と、いいました。
そこで、ひとつ目がすべりおりてきて、かわりに、三つ目がのぼっていきました。でも、三つ目も、やっぱり うまくいきません。三つ目が、どんなにねらいをつけても、金のりんごは、にげていってしまうのです。
とうとう、母親はがまんできなくなって、自分で木にのぼっていきました。けれども、母親も、ひとつ目や三つ目とおんなじです。どうしても、りんごをつかむことができません。
そのとき、そばから、ふたつ目が、
「こんどは、あたしがのぼってみるわ。もしかすると、うまくいくかもしれないから。」
と、いいました。
それを聞くと、姉さんと妹は、
「ふたつ目のおまえなんかに、なにができるもんかい。」と、大きな声でいいました。
でも、ふたつ目は、かまわずにのぼっていきました。と、どうでしょう。金のりんごは、にげるどころではありません。向こうからひとりでに、ふたつ目の手のなかに、はいってくるではありませんか。ふたつ目は、それをつぎつぎともぎとりました。そして、まえかけをいっぱいにして、おりてきました。ところが、母親は、それをみんなとりあげてしまいました。
ほんとうなら、これだけのことをしたのですから、母親もひとつ目も三つ目も、みんなで、このかわいそうなふたつ目を、まえよりも、大事にしてやらなければなりません。それなのに、ふたつ目だけが、りんごをうまくとることができたものですから、ねたましくてたまらないのです。それで、みんなは、まえよりももっと、ふたつ目をいじめるようになりました。
ある日、みんながいっしょに、この木のそばに立っていました。すると、ひとりの若い騎士が、通りかかりました。
「ふたつ目、早く 早く、その下におはいり。おまえがいると、あたしたちが恥をかくじゃないの。」
ふたりのきょうだいは、こうさけぶと、木のそばにあった空きだるを、おおいそぎで、ふたつ目の頭の上に、すっぽりとかぶせてしまいました。そして、ふたつ目がもいでおいた金のりんごも、いっしょに そのなかへおしこみました。
まもなく、騎士が近づいてきました。見ると、それはそれはりっぱな人でした。騎士は馬をとめて、金と銀とでキラキラしている美しい木を、うっとりとながめていました。それから、ふたりのきょうだいに向かって、
「この美しい木はだれのものかね。わたしに、これをひと枝折ってくれれば、ほしいものをなんでも、お礼にあげよう。」と、いいました。
すると、ひとつ目と三つ目は、すぐに、
「この木はあたしたちのものでございます。ひと枝折ってさしあげましょう。」と、答えました。
ふたりは、すぐに枝を折ろうとしました。ところが、ふたりが、いっしょうけんめい、枝やりんごをつかまえようとしても、そのたびに、枝もりんごもにげていってしまうのです。どうしても、折りとることができません。そのようすを見て、
「この木は、おまえたちのものだということだが、おまえたちに、枝ひとつ折れないというのは、まことにふしぎだな。」と、騎士はいいました。
それでも、ふたりのきょうだいは、
「この木はあたしたちのものでございます。」と、いいはりました。
ところが、ふたりがこんなことをいっているとき、ふたつ目が、たるの下から、金のりんごをふたつ、三つ、外へころがしました。りんごは、騎士の足もとへ、ころころと ころがっていきました。ひとつ目と三つ目がうそばかりついているので、ふたつ目がおこって、こんなことをしたのです。
りんごを見ると、騎士はびっくりして、たずねました。
「そのりんごは、どこからころがってきたのかね。」
ひとつ目と三つ目は、
「じつは、あたしたちには、もうひとり きょうだいがおります。ただ、そのものは、ほかのいやしい人間とおなじように、目がふたつしかございません。それで、お目にかけるわけにはまいらないのです。」と、答えました。
けれども騎士は、そのふたつ目に、ぜひ会いたいと思いました。それで、
「ふたつ目や。でてきなさい。」と、よびました。
その言葉を聞くと、ふたつ目は安心して、たるのなかからでてきました。
騎士は、ふたつ目がたいそう美しいのにびっくりして、
「ふたつ目、おまえなら、この木の枝を、折ってくれることができるだろうね。」と、いいました。
「はい、折ってさしあげることができると思います。この木はあたくしのものでございますから。」と、ふたつ目は答えて、木にのぼりました。
そして、美しい銀の葉と、金の実のついている枝を一本、折ってきて、騎士にわたしました。
そこで、騎士はいいました。
「ふたつ目や。お礼には、なにをあげようかね。」
「あたくしは、朝早くから夜おそくまで、おなかがすいて、のどがかわいてたまりません。そのうえ、苦しみと悲しみの、絶えたことがございません。もしも、あなたさまがあたくしをおつれくださって、この苦しみからすくってくださいますなら、どんなにかうれしゅうございます。」
と、ふたつ目は答えました。
そこで、騎士はふたつ目をだきあげて、自分の馬にのせ、父親のお城につれて帰りました。
騎士は、ふたつ目に美しい服を着せ、すきなだけ、食べたり飲んだりさせました。そればかりではありません。ふたつ目を、すっかり すきになりましたので、ふたつ目と結婚することにしました。やがて、ふたりのご婚礼の式があげられました。だれもかれも おおよろこびでした。
さて、ふたつ目が、美しい騎士につれられていったのを見ると、姉さんと妹は、もう、ふたつ目のしあわせがうらやましくてなりません。
(でも、いいわ。まだ、あのふしぎな木がのこっているんだもの。あの金の実をとることはできないけれど、みんながあの木のまえに立ちどまって、それから、あたしたちのところへやってきて、ほめてくれるわ。今に、あたしたちにだって、運が向いてくるかもしれないわ。)と、ふたりは考えました。
ところが、あくる朝になってみますと、どうでしょう。その木はかげもかたちもないのです。これで、ふたりののぞみは、だめになってしまいました。
一方、ふたつ目は、自分の小さな部屋から、表をながめました。と、その木が、お部屋のまえにはえているではありませんか。ふたつ目は、うれしくて、思わずとびあがりました。その木は、ふたつ目のあとに、ついてきたのでした。
ふたつ目は、ながいこと、しあわせに暮らしました。
あるとき、みすぼらしい女がふたり、ふたつ目のお城へやってきました。女たちは、
「なんでも、けっこうです。どうか、おめぐみください。」と、お願いしました。
ふたつ目は、ふと、その顔をながめました。と、どうでしょう。自分の姉さんのひとつ目と、妹の三つ目ではありませんか。ふたりは、今は、すっかり落ちぶれていました。そこらを歩きまわっては、人の家のお勝手で、食べものを、めぐんでもらわなければならない身の上に、なっていたのです。
でも、心のやさしいふたつ目は、ふたりを、よろこんでむかえました。そして、いろいろと親切に、世話をしてやりました。ですから、姉さんも妹も、若いころ、ふたつ目に、さんざんひどいことをしたのを、心から後悔しました。
了
底本:「グリムの昔話(2)林の道編」童話館出版
2000(平成12)年12月10日第1刷発行
2015(平成27)年5月20日第15刷発行
底本の親本:「グリム童話全集 10 かえるの王さま」実業之日本社
1964(昭和39)年
入力:sogo
校正:木下聡
2024年5月11日作成
青空文庫作成ファイル:
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