あらすじ
ある小さな町で、子どもたちが遊びの最中に「屠殺ごっこ」を始めます。彼らは役割分担をし、一人の男の子が「豚」に、もう一人の男の子が「豚を屠殺する人」に扮します。遊びは次第にエスカレートし、悲劇的な結末を迎えます。残酷な遊びが招く恐ろしい結果、そして、その後の町の人々を襲う悲しみに満ちた運命。この物語は、無邪気な遊びの裏に潜む人間の残酷さ、そして、その結果生じる深い悲しみを描いています。やがて、子どもたちは役わりをきめて、一人の男の子に、おまえは牛や豚をつぶす人だよと言い、もう一人の男の子には、おまえはお料理番だよと言い、またもう一人の男の子には、おまえは豚だよと言いました。それから、女の子にも役をこしらえて、一人は女のお料理番になり、もう一人はお料理番の下ばたらきの女になることにしました。この下ばたらきの女は、腸づめをこしらえる用意として、豚の血を小さい容器に受ける役目なのです。
役割がすっかりきまると、豚をつぶす人は、豚になるはずの男の子へつかみかかって、ねじたおし、小刀でその子の咽喉を切りひらき、それから、お料理番の下ばたらきの女は、じぶんの小さないれもので、その血をうけました。
そこへ、市の議員がはからずとおりかかって、このむごたらしいようすが目にはいったので、すぐさまその豚をつぶす人をひったてて、市長さんの家へつれて行きました。市長さんは、さっそく議員をのこらず集めました。
議員さんがたは、この事件をいっしょけんめいに相談しましたが、さて、男の子をどう処置していいか、見当がつきません。これが、ほんの子どもごころでやったことであるのは、わかりきっていたからです。ところが、議員さんのなかに賢い老人が一人あって、それなら、裁判長が、片手にみごとな赤いりんごを、片手にライン地方で通用する一グルデン銀貨をつかんで、子どもを呼びよせて、両手を子どものほうへ一度につきだしてみせるがよい。もし、子どもが、りんごを取れば、無罪にしてやるし、銀貨のほうを取ったら、死刑にするがよいと、うまいちえをだしました。
そのとおりにすることになりました。すると、子どもは、笑いながら林檎をつかみました。それで、子どもは、なんにも罰をうけないですみました。
あるとき、おとうさんが豚を屠殺すところを、その子どもたちが見ました。やがて、おひるすぎになって、子どもたちが遊戯をしたくなると、ひとりが、もうひとりの小さい子どもに、
「おまえ、豚におなり。ぼくは、ぶたをつぶす人になる」と言って、抜き身の小刀を手にとるなり、弟の咽喉を、ぐさりと突きました。
おかあさんは、上のおへやで、赤ちゃんをたらいに入れて、お湯をつかわせていましたが、その子どものけたたましい声をききつけて、すぐかけおりてきました。そして、このできごとを見ると、子どもののどから小刀を抜き取るが早いか、腹たちまぎれに、それを、豚のつぶしてであったもうひとりの子の心臓へ突きたてたものです。
それから、たらいのなかの子どもはどうしているかと思って、その足でおへやへかけつけてみましたら、赤ちゃんは、そのあいだに、お湯のなかでおぼれ死んでいました。
これが原因で、妻は心配が嵩じて、やぶれかぶれになり、めしつかいの者たちがいろいろなぐさめてくれるのも耳に入らず、首をくくってしまいました。
夫がはたけからかえってきました。そして、このありさまをのこらず見ると、すっかり陰気になって、それから間もなく、この人も死んでしまいました。
了
底本:「完訳 グリム童話集(一)〔全五冊〕」岩波文庫、岩波書店
1979(昭和54)年7月16日改版第1刷発行
1989(平成元)年5月16日第17刷発行
※「小刀」に対するルビの「こがたな」と「ナイフ」の混在は、底本通りです。
※表題は底本では、「二五 子どもたちが屠殺ごっこをした話」となっています。
入力:かな とよみ
校正:山本洋一
2021年11月27日作成
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