あらすじ
北大路魯山人は、自身が食べた加賀の山代産のたくあんが、最高に美味しいと断言します。寒国で作られた大根が美味しさの秘訣であるとしながらも、山代産のたくあんには他の地域のものにはない独特の「うまさ」があるのだと力説します。伊勢産のたくあんは、大量生産のため、山代産のような素朴な美味しさが失われていると指摘し、ぬか漬けの重要性を説きながら、東京のたくあんが、ぬかの量が少ないために味が劣ると批判します。さらに、寒帯地方のものが美味しいという自身の持論を展開し、様々な食材を例に挙げて、読者を美味しさと奥深い食の世界へと誘います。
 たくあんの話をしてみよう。
 今日食べたたくあんは、加賀の山代やましろでできたものである。わたしの知っているかぎりでは、山代産のたくあんが一等よいものだと思う。これは、だいこんが寒国でできたことが主なる原因だが、山代のは他のコツもあって伊勢のものとも違う。伊勢のも種類があり、いいものだが、山代のには及ばない。伊勢は産業として、大量に生産しているので、山代のようなウブなうまさはない。五十年も前には、山代のようなうまさもあったようだが、しかし、伊勢のもぬかが多いので、それだけのうまさはあるといえよう。
 山代のも、多量のぬかを使っていて、ぬかの中からたくあんを掘り出す感があるが、このようにぬかを多く使用することは、うまいたくあんを作るコツである。
 東京のたくあんの漬け方は、黄色の色素でカムフラージュされていて、うまくない。これは明らかにぬかの少ないせいだといえよう。
 ついでにいうと、やさいでも、魚でも、総じて寒帯地方のものがよい。北海道で獲れるさけ、ます、にしん、棒だらが美味であることなど、その一例である。
 一概にはいえないが、暖地で間違いないのはくだものであろう。くだもの類は概して暖地に名果ができるものである。
(昭和九年)

底本:「魯山人著作集 第三巻」五月書房
   1980(昭和55)年12月30日
初出:「星岡 38号」星岡窯研究所
   1934(昭和9)1月
入力:江村秀之
校正:木下聡
2021年3月27日作成
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