あらすじ
ある日、ネコはネズミと仲良くなり、一緒に暮らすことを約束します。冬に備えて、ふたりはヘットのつぼを買い、教会に隠すことにします。しかし、ネコはヘットがどうしても食べたくて、ネズミに「名づけ親になってくれ」と嘘をつき、教会へ行ってヘットを食べてしまいます。その後も、ネコは何度も嘘をつき、ヘットをたいらげていきます。ネズミは、ネコのつける赤ちゃんの名前の奇妙さに気づき始めますが、ネコはそれを嘲笑います。やがて冬が訪れ、食べ物がなくなると、ふたりはヘットのつぼを取りに行くことに。しかし、つぼは空っぽでした。ネズミは、ネコの策略に気づくのでした。
 ネコがネズミと知りあいになりました。ネコはネズミにむかって、これからきみをうんとかわいがって、なかよくしてあげるよ、と、さかんにうまいことをいいたてました。それで、とうとうネズミは、ネコとおなじうちにすんで、いっしょにくらすことを承知(しょうち)してしまいました。
「だが、わたしたちは、冬になってもいいように、用意(ようい)をしておかなくちゃならないよ。さもないと、ひもじいめにあうからね。」
と、ネコがいいました。
「ネズミくん、きみはそこらじゅう、むやみに歩きまわることはできないだろう。ネズミとりにでもひっかかるとこまるものねえ。」
 このしんせつな忠告(ちゅうこく)どおりにして、ふたりはヘット(料理(りょうり)につかう牛の脂肪(しぼう))のはいった小さなつぼをひとつ買いこみました。でも、そのつぼをどこへおいたものか、どうもふたりにはよくわかりません。それで、長いこと考えぬいたあげくに、とうとう、ネコがこういいました。
「こいつをしまっておくのにいい場所(ばしょ)といったら、まず教会(きょうかい)のほかにはないだろうよ。あそこなら、まさかぬすみだすやつもいまいからね。祭壇(さいだん)の下においといて、入り用なときがくるまでは、手をつけないでおくことにしよう。」
 これで、つぼはだれにもぬすまれる心配(しんぱい)はなくなりました。ところが、いくらもたたないうちに、ネコはヘットがなめたくてしようがなくなりました。そこで、ネズミにむかっていいました。
「きみに話したいことがあるんだがね、ネズミくん。じつは、わたしはおばさんから名(な)づけ親(おや)になってくれってたのまれているんだよ。おばさんがね、白と茶色(ちゃいろ)のぶちのむすこを一ぴき生んだもんだから、その子の洗礼(せんれい)にたちあってくれっていうのさ。だから、きょうはひとつ、わたしをでかけさせて、おまえさんひとりで、うちのことをやっていてくれないかね。」
「いいですよ、いいですよ。」
と、ネズミはこたえました。
「えんりょなくいってらっしゃい。あなたがなにかおいしいものでもめしあがるときには、あたしのことも思いだしてくださいな。産婦(さんぷ)さんののむ、あまい赤(あか)ブドウ酒(しゅ)のようなものなら、あたしもひとしずくぐらい、いただきたいですよ。」
 ところがこれは、ぜんぶでたらめなんです。だって、ネコにはおばさんなんてひとりもないんですからね。ですから、名づけ親にたのまれたなんて、とんでもない話なのです。
 ネコは、そのまままっすぐ教会(きょうかい)へいって、あのつぼのところへしのびこむと、さっそくピチャ、ピチャなめはじめました。そしてまもなく、ヘットのどろんとした上皮(うわかわ)を、きれいになめてしまいました。それから、町の家いえの屋根(やね)の上を散歩(さんぽ)して、あたりのようすをながめてから、こんどは日なたに長ながとねそべりました。そして、さっきのヘットのつぼのことを思いだしては、そのたびに、ひげをこすっていました。
 日がくれてから、ネコはやっとうちへかえってきました。
「おや、おかえりになったのね。きょうは、さぞかしたのしかったでしょう。」
と、ネズミがいいました。
「うん、うまくいったよ。」
と、ネコがこたえました。
「赤ちゃんにはどんな名まえがつけられましたの。」
と、ネズミがたずねました。
「〈皮(かわ)なめ〉さ。」
と、ネコは、そっけなくこたえました。
「皮なめですって。」
と、ネズミは思わず大きな声でいいました。
「それはまた、きみょうな、かわった名まえですのね。あなたがたのおうちでは、そういう名まえがよくつけられるんですの。」
「こんなのは、なんでもないさ。きみの名(な)づけ子(ご)の〈パンくずどろぼう〉なんてのよりは、わるかあないぜ。」
と、ネコはいいました。
 それからまもなく、ネコはまたまた、ヘットがなめたくてたまらなくなりました。そこで、ネコはネズミにいいました。
「ほんとに、きみにはすまないけど、もういっぺん、うちのことをひとりでやってもらわなきゃならない。じつは、また名(な)づけ親(おや)にたのまれちまったんだよ。なにしろ、こんどの赤んぼうの首(くび)のまわりにゃ白い輪(わ)がついてるってことだから、どうしてもことわるわけにゃいかないのさ。」
 心のすなおなネズミは、すぐに承知(しょうち)しました。ところがネコのほうは、町の石べいのうしろをとおって、教会(きょうかい)のなかへしのびこみました。そして、あのヘットのつぼを半分(はんぶん)ほどもたいらげてしまったのです。
「まったく、このうまさは、ひとりで食べてみなくちゃわからんて。」
と、ネコはいいました。そして、きょうはうまいことをやったもんだと、すっかり満足(まんぞく)していました。やがて、ネコがうちにかえってきますと、ネズミがたずねました。
「こんどの赤ちゃんは、なんて名まえをつけてもらいましたの。」
「〈半分(はんぶん)ぺろり〉。」
と、ネコはこたえました。
「半分ぺろりですって。なにをおっしゃるのよ。そんな名まえは、あたしまだきいたこともありませんわ。だいいち、そんな名まえ、人名簿(じんめいぼ)にだってのっちゃいませんよ。」
 ネコは、まもなく、またおいしいごちそうが食べたくなって、しきりに口のなかにつばきがたまってきました。
「いいことは三度あるっていうがね。」
と、ネコはネズミに話しました。
「じつは、また名(な)づけ親(おや)になってくれっていわれているんだよ。こんどの子はまっ黒でね、足だけが白いんだよ。そのほかは、からだじゅうどこにも白い毛(け)なんて一本もはえていないのさ。こんなのは、二、三年に一ぴきぐらいしか生まれないんだよ。だから、どうかわたしをもういちどいかしておくれ。」
「皮(かわ)なめだの、半分(はんぶん)ぺろりだのって、ずいぶんおかしな名まえなのね。考えてみると、なんだかへんだわ。」
と、ネズミはこたえました。
「きみは、そのネズミ色のあらっぽい毛の上着(うわぎ)をきこんで、長い毛をおさげにして、いつもうちのなかにばかりひっこんでいる。おまけに、年がら年じゅう、くよくよしている。昼まそとへでないもんだから、そんなふうになっちまうんだね。」
と、ネコがいいました。
 ネズミは、ネコのるすのあいだにうちのなかをきれいにかたづけて、きちんとしておきました。ところが、くいしんぼうのネコは、つぼのなかのヘットをすっかりたいらげてしまいました。
「みんなたいらげちまうと、やっと安心(あんしん)できるもんだ。」
 ネコはこうひとりごとをいって、夜(よ)がふけてから、ようやく、大満腹(だいまんぷく)でうちにかえってきました。ネズミは、さっそく、三ばんめの赤んぼうにつけられた名まえをきいてみました。
「こんどの名まえも、きみには気にいらないだろうよ。」
と、ネコがいいました。
「こんどのは、〈みんなぺろり〉というのさ。」
「みんなぺろりですって。」
と、ネズミは大声をあげました。
「そんな名まえが印刷(いんさつ)されてるのは、まだ見たこともないわ。みんなぺろり。いったい、なんのことだろう。」
 ネズミは頭をふりましたが、からだをまるくして、そのままねてしまいました。
 それからは、もうだれも、ネコに名(な)づけ親(おや)になってくれとたのむこともありませんでした。しかし、やがて冬がちかづいてきて、そとに食べものがなんにも見つからなくなりました。すると、ネズミはたくわえのことを思いだして、いいました。
「ねえ、ネコさん、ふたりでしまっておいたヘットのつぼのところへいきましょうよ。きっとおいしいわよ。」
「よしきた。」
と、ネコはこたえました。
「きっと、きみのそのうすっぺらな舌(した)を、窓(まど)からだしたときのような味(あじ)がするだろうぜ。」
 そこで、ふたりはでかけました。むこうへついてみますと、たしかに、つぼはもとのままの場所(ばしょ)においてありました。ところが、その中身(なかみ)がからっぽです。
「まあ。」
と、ネズミがいいました。
「いまこそ、あたしにも、よっくわかったわ。すっかりわけがのみこめてよ。あなたは、たいへんなお友だちだったのね。なにもかもきれいに食べちまってさ、名(な)づけ親(おや)になるなんていっちゃあ食べて、はじめは上皮(うわかわ)をなめ、それから半分(はんぶん)ぺろりとやって、そのつぎには……」
「だまらないか。」
と、ネコがどなりつけました。
「もうひとこといってみろ、おまえをくっちまうぞ。」
「みんなぺろり」と、あわれなネズミが、舌の上まででかかっていたことばを、口にするかしないうちに、ネコはネズミめがけてひととびにおどりかかりました。そして、ネズミをひっつかむがはやいか、ぐうっとのみこんでしまったのです。
 いいですか、世(よ)のなかってこんなものなんですよ。
了

底本:「グリム童話集(1)」偕成社文庫、偕成社
   1980(昭和55)年6月1刷
   2009(平成21)年6月49刷
入力:sogo
校正:チエコ
2019年8月30日作成
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