あらすじ
戦時中の農村を舞台に、人々の苦悩と希望が描かれます。畑仕事で生計を立てたいという願いは、戦争の影に阻まれ、不安と絶望に包まれます。銃声が響き、戦況は悪化する一方、人々は自分たちの未来を案じ、それでも懸命に生きていく姿が、切々と描かれた作品です。
胡瓜つくってもいい
トマトつくってもいい
南瓜も西瓜も茄子も
高い肥料代や小作米にくわれる
二番稲をつくるより
野菜をつくって市へだすのが
なんぼいいかも知れない
山の向うの村から
はこんで来るリヤカーの群をみると
みんな悲しげにそう思う

今朝も
おっかあ達は
ここ 町の入口で
がやがやとかけひきに余念がない
家の側を流れる溝で
夜になって 月にぬれて
野菜や果物を洗ってみたい
自分で手入れて
自分でみがいて
売りにいってみたい
みんなそう思うのだが
今日も
雨にしがみつくような銃声がきこえて来る
「敵は左方 四百米」
稲田の畔の こえぐろの影で
赤と白
半々の旗がひらめいている
俺達ゃ はらはらする
「追撃」の声もろとも
泥田の畔をふみ砕いてつき進む群

「畑だったら
畑だったら、わやくそだ!」
みんな悲しげにそう思う
(『車輪』一九三六年九月号に発表 一九七九年二月野田※(「日+向」、第3水準1-85-25)子発行『倉橋潤一郎作品集』を底本)

底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社
   1987(昭和62)年6月30日初版
底本の親本:「倉橋潤一郎作品集」野田子
   1979(昭和54)年2月
初出:「車輪」
   1936(昭和11)年9月号
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年6月22日作成
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