あらすじ
霜降り始めた山道を、二人で急ぎ足で下ります。眼下に広がる諏訪の低地は、白雲に覆われてまるで大きな湖のようです。山菊は、その白雲を背景に凛と咲き、二人の旅の疲れを癒してくれます。予らふたりはようやく一団の草原を過ぎて、麓を見渡した時、初めて意外な光景を展望した。
諏訪一郡の低地は白雲密塞して、あたかも白波澎沛たる大湖水であった。急ぎに急ぐ予らもしばらくは諦視せざるを得ない。路傍の石によろよろと咲く小白花はすなわち霜に痛める山菊である。京で[#「京で」は底本では「京でも」]見る白菊は貴人の感じなれど、山路の白菊は素朴にしてかえって気韻が高い。白雲の大湖水を瞰下してこの山菊を折る。ふたりは山を出るのが厭になった。
了
底本:「長野県文学全集 〔第期/随筆・紀行・日記編〕 第2巻 明治編〈〉」郷土出版社
1989(平成元)年11月18日発行
底本の親本:「左千夫全集 第二卷」岩波書店
1976(昭和51)年11月25日発行
初出:「國民新聞」國民新聞社
1908(明治41)年11月3日
※誤植を疑った箇所を、底本の親本の表記にそって、あらためました。
※初出時の署名は「左千夫」です。
入力:高瀬竜一
校正:きりんの手紙
2020年6月27日作成
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