あらすじ
伊藤野枝は、自身の周囲に蔓延る誤解や嘲笑に深く傷つきながらも、平塚らいてうの論文集「現代と婦人の生活」の出版を心から喜びます。この作品が、周囲からの理解を得られずに苦悩する女性たちの現実を、率直にそして力強く語ってくれるものだと信じているのです。
らいてうさま、
 ほんとうに私は嬉しう御ざいます。私はあなたの第二の感想集が出版されるのだと思ひますとまるで自分のものでも出すやうな心持ちがいたします。最近の私達の生活を知つてゐるものは私達自身きりですわね、私たちは私たちの周囲の極く少数の人をのぞく他の誰からも理解や同情など云ふものを得ることは出来ませんでしたね、まるで私だちの周囲は真暗でしたもの。疑惑と中傷と誤解と威圧とそして侮蔑と嘲笑と揶揄とが代る/″\に私達を一番親しく見舞つてくれましたわね、けれどもその中からこのあなたの論文集が生れたのですわね、それに依つて如何にあなたがそれ等にお接しなすつたかと云ふ事がこの書に依つて明瞭になることが私にとつて一番うれしいのです。私はこの書が出来るけ広く読まれる事をのぞんでゐます。私はこの書があなたの最上の著述だとは信じませんけれども少くともあなたの多少変化のあつた最近の生活の努力によつて生れた尊い思想の断片として私は私の能ふるかぎりの尊敬をこの書に捧げます。
(三、一一、八)
小石川にて
野枝
らいてうさま
[平塚明『現代と婦人の生活』日月社、一九一四年一一月]

底本:「定本 伊藤野枝全集 第二巻 評論・随筆・書簡1――『青鞜』の時代」學藝書林
   2000(平成12)年5月31日初版発行
底本の親本:「現代と婦人の生活」反響叢書第二編、日月社
   1914(大正3)年11月27日
初出:「現代と婦人の生活」反響叢書第二編、日月社
   1914(大正3)年11月27日
※「私達」と「私たち」と「私だち」の混在は、底本通りです。
※底本における表題「序に代へて」に、初出誌名を補い、作品名を「「現代と婦人の生活」序に代へて」としました。
入力:酒井裕二
校正:かな とよみ
2021年12月27日作成
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