あらすじ
女が家から出て行ってしまった後、残された部屋には灰が積もっています。詩人は、女の不在を感じながら、鳥の羽が斜めに空へ飛んでいく様子を目にします。寂しさに包まれた詩人は、神様はつまらないものばかり作ったと嘆きます。洗面器の底に残った水、古いゴムまり、十能など、使われなくなったものが詩人の目に留まり、その光景は、女の不在と、詩人の心の空虚さを映し出しているかのようです。雀の鳴き声は、詩人の心に突き刺さる生唾液のように響きます。雨はまだ降るのでしょうか。詩人は、インキ壺をのぞき込み、墨汁の濃さを確認するように、女の帰りを待ち望んでいます。
ツツケンドンに
女は言ひつぱなして出て行つた

襖の上に灰がみえる
眼窩の顛倒
鳥の羽斜に空へ!……

対象の知れぬ寂しみ
神様はつまらぬものゝみをつくつた

盥の底の残り水
古いゴムマリ
十能が棄てられました

雀の声は何といふ生唾液ナマツバキだ!
雨はまだ降るだらうか
インキ壺をのぞいてニブリ加減をみよう

底本:「新編中原中也全集 第二巻 詩」角川書店
   2001(平成13)年4月30日初版発行
※底本のテキストは、著者自筆稿によります。
※()付きの表題は、作品の冒頭をとって、底本編集時に与えられたものです。
※()内の編者によるルビは省略しました。
入力:村松洋一
校正:hitsuji
2020年5月27日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。