あらすじ
中原中也は、宮沢賢治の詩作について、その生々しい印象と新鮮な現実に焦点を当てて考察しています。賢治は、自身の体験をありのままに表現することにこだわり、概念的な思考を可能な限り排除したのです。彼は、目の前の現実を、そのままに受け止め、その感動をそのままに表現しようとしたのです。その結果、賢治の詩には、動物よりも植物、夏よりも冬、そして「鋼青」や「苹果」といった、独特の美意識が色濃く表現されているのです。彼は想起される印象を、刻々新しい概念に、翻訳しつつあつたのです。彼にとつて印象といふものは、或ひは現識といふものは、勘考さるべきものでも翫味さるべきものでもない、そんなことをしてはゐられない程、現識は現識のまゝで、惚れ惚れとさせるものであつたのです。それで彼は、その現識を、出来るだけ直接に表白出来さへすればよかつたのです。
要するに彼の精神は、感性の新鮮に泣いたのですし、いよいよ泣かうとしたのです。つまり彼自身の成句を以つてすれば、『聖しののめ』に泣いたのです。
そしてその気質としては、動物よりも植物を、夏よりも冬を愛し、――『鋼青』を『苹果』を、午前のみそれを愛したのです。
了
底本:「新編中原中也全集 第四巻 評論・小説」角川書店
2003(平成15)年11月25日初版発行
底本の親本:「レツェンゾ」
1935(昭和10)年6月号
初出:「レツェンゾ」
1935(昭和10)年6月号
入力:村松洋一
校正:noriko saito
2014年9月11日作成
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