あらすじ
死期が迫った「自分」は、医師たちの絶望的な宣告に翻弄されます。生か死か、どちらの路を歩むのか。自分の生命力は、医師たちの予想とは異なるかもしれないと信じ、懸命に生きようとする「自分」の姿が、切々と描かれます。しかし、希望はあるのでしょうか。死の影が迫る中、運命に翻弄される「自分」の心情が、読者の心を強く揺さぶります。
生と死の路は今自分の行手にあり
自分はこの全き方向のちがった路の
何れを歩んでいるかを知らない
歩む路は一すじ
ただこの一すじが
生命の歓喜へ向っているか
また永遠の死へ辿っているか
自分にも解き得ざる謎
謎の日は今、日毎(ひごと)つづきつつある
だが博士は言った
「半年か一年か保証は出来ないがね」
ここで自分の歩む路は死だと予断されている
も一人の博士はただ眉をひそめて
「生死の問題よりも苦痛よりのがれる方法を」と自分の言葉を認めて麻薬で劇薬の注射を与えて去った
又も一人の医師は言う
「もう手おくれだ どこもかしこも悪い
ただ死は時日の問題だ」
自分はすべての医師に絶望を語られ
お前は死の路を歩むでいるのだと言われてその儘に
自分の生命力が博士達の想像と同一であるとは信じない
信じたくない。
博士達にだって幾月幾日に断定出来ないからだだ
ただ自分の生命は非常に死に近づいている、
死の手に引かれるか
又再び生の力に引上げられるか
あぶなげなわが生命 はかなきわが生命
わが今歩める路は果して何れか
一九三五・五・七
了

底本:「今野大力作品集」新日本出版社
   1995(平成7)年6月30日初版
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年3月8日作成
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