あらすじ
「死」の残酷さを嘆き、その支配に抗う詩人の叫びが、力強く響き渡ります。かつては慈悲深かった「死」が、いつしか冷酷な支配者となり、人々を悲しみに沈めています。詩人は「死」に怒りを燃やし、その罪を糾弾します。しかし、同時に「死」への畏怖と、失われた「愛」への切ない想いを歌い上げます。この世に「死」が君臨する中で、詩人は何を訴えたいのでしょうか。
忌々ゆゝしき「死」の大君おほぎみは慈悲のあだなり、
昔よりかなしみの母、
かたくなに、言向ことむけがたきつかさかな。
われも心に「憂愁いうしう」のたねかれぬ、
いざさらばうれひてまじ
このしたの君さいなみにみぬとも。

われ今ここに君が身をつゆばかりだに
慈悲無しと思ふものから、
まがごとの大凶事おほまがごとと、君が罪
ならして責めむ。世の人も知らぬにはあらず、
しかすがになほいきどほり、
けふよりぞ「愛」のめぐみ歸依きえすべき。

いとうつくしき禮讓れいじやうはこのちりの世を捨てたるか。
をみな心のうるはしき徳性さへもうせにしか。
わかきいのちのまさかりに、
「愛」の色香いろかこぼちたる憎き「死」の神。

この淑女いらつめたれなるを、ここに語るははゞかれど、
そが本性ほんしやうの氣高きを述べたればこそ人知らめ。
後世ごせさいはひ得べき身ぞ
あま御空みそらに此君をあふぎ見すらむ。

底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店
   1962(昭和37)年12月16日第1刷発行
   2010(平成22)年4月21日第38刷改版発行
初出:「家庭文芸 創刊号」
   1907(明治40)年1月
入力:川山隆
校正:成宮佐知子
2012年10月12日作成
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