あらすじ
「時」の香りが漂う絹のように、かつての情熱は色褪せ、鏡の外に溢れ出た雲のように消え行くのでしょうか。心の焦燥は、道行く人の目にも留まらないほどに深く、もはやあなたは私の夢の中にしか存在しないのかもしれません。唇の甘い囁きへの憧憬も、貴方を愛する人々の「名利」の叫び声に掻き消されてしまうのでしょうか。
絹には「時」の薫(くん)ずれど
「妄執(まうしふ)」の色褪せにたり、
鏡のそとに溢れたる
雲の御髮(みぐし)に如(しか)めやも。

心急(いら)れの旗じるし
道の衢(ちまた)にいきほへど、
われはた君がねくたれを
枕(まくら)きてあらむ、眼もきりて。

げに唇のいとせちに
憧(あこが)るとてもあやなしや、
君戀ひわたる貴人(あてびと)が、

丈長髮(たけながかみ)のふくだみに
玉を擲(なげう)つここちして
「名利(みやうり)」の叫(さけび)ふたがずば。
了

底本:「上田敏全訳詩集」岩波文庫、岩波書店
   1962(昭和37)年12月16日第1刷発行
   2010(平成22)年4月21日第38刷改版発行
初出:「芸苑 五」
   1906(明治39)年5月
※著者名の原綴り「Stphane Mallarm」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「Stephane Mallarme」としました。
入力:川山隆
校正:岡村和彦
2012年11月24日作成
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