あらすじ
冬の寒さが身に染みる夜、静かに障子から落ちた蛾は、そのまま息絶えてしまいます。何もできない自分は、その蛾のように、ただ一人、静かに死んでいくことを予感しています。誰にも気づかれずに、忘れられていく存在。それでも、生きている間に何もできなかったことを悔やむことなく、静かに死んでいこうとする姿が描かれています。
蛾が
静かに障子のさんからおちたよ
死んだんだね

なにもしなかったぼくは
こうして
なにもせずに
死んでゆくよ
ひとりで
生殖もしなかったの
寒くってね

なんにもしたくなかったの
死んでゆくよ
ひとりで

なんにもしなかったから
ひとは すぐぼくのことを
忘れてしまうだろう
いいの ぼくは
死んでゆくよ
ひとりで

こごえた蛾みたいに

底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年10月13日作成
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