あらすじ
満州の白い病院で、山田という人物が静かに息を引き取ろうとしています。熱で乾いた唇は枯草のように、ゆでたまごのように熱くなった眼は天井を見つめ、そこには活動写真のフィルムのように景色が流れていきます。やがて、黒いカーテンが眼を覆い、花びらが静かに唇に降り積もるように、山田の意識は薄れていきます。秋の空に白い雲が溶けていくように、山田の命も静かに消えていくのです。やっぱし遠いところ
乾いた砂が たいらかに
どこまでもつづいていて
壁の家があったりする
そのどこかの町の白い病院に
熱で干いた唇が
枯草のように
音もなく
山田のことばで
いきをしていたのか
ゆでたまごのように
あつくなった眼と
天井の
ちょうど中ごろに
活動写真のフィルムのように
山田の景色がながれていたのか
あゝその眼に
黒いカーテンが下り
その唇に
うごかない花びらが
まいおちたのか
楽譜のまいおちる
けはいにもにて
白い雲が
秋の空に
音もなく
とけて
ゆくように
了
底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年11月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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