あらすじ
「オレ」は、帰ってきたはずの日本が、もはや見えず、感じられないことに戸惑いを隠せない。かつて、鮮やかであった日本の風景は、今では、暗く、不確かで、まるで「オレ」自身の記憶すら曖昧になっているかのようだ。目の前に広がる景色は、かつての「オレ」が知っていた日本ではなく、もはや異質なもののように思えてしまう。失われた記憶、そして、見えなくなった日本。果たして「オレ」は、かつての自分を取り戻すことができるのだろうか。
この空気
この音
オレは日本に帰ってきた
帰ってきた
オレの日本に帰ってきた
でも
オレには日本が見えない

空気がサクレツしていた
軍靴がテントウしていた
その時
オレの目の前で大地がわれた
まっ黒なオレの眼漿がんしょうが空間に
とびちった
オレは光素(エーテル)を失って
テントウした

日本よ
オレの国よ
オレにはお前がみえない
一体オレは本当に日本に帰ってきているのか
なんにもみえない
オレの日本はなくなった
オレの日本がみえない

底本:「竹内浩三全作品集 日本が見えない 全1巻」藤原書店
   2001(平成13)年11月30日初版第1刷発行
   2002(平成14)年8月30日初版第5刷発行
入力:坂本真一
校正:雪森
2014年7月19日作成
青空文庫作成ファイル:
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