あらすじ
「哀詩数篇」は、暗闇に覆われた世界と、そこに生きる人間の悲しみを描いた詩集です。日々の憂鬱と絶望が、深い悲哀を帯びた言葉で表現され、読者の心に静かに響きます。希望を求める心の叫びと、それを阻む現実の虚しさが対比され、切ない余韻を残します。暗いながらも美しい言葉が、深い感傷の世界へと誘うでしょう。

くらがり


なすによしなき哀れさよ、
早や日数経て、今日けうの日も
くらがりわたる物おもひ。

水や空なる波の上に、
淋しくかゝる綾雲あやぐもは、
やがて消ゆべき希望のぞみかや。

その希望もて吾が道は、
深海ふかみの底の青貝の、
螺線の中のゆきもどり。

物の幾度(不明)(不明)葉に、
灰色なせる涙もて、
悲哀の文字を印せしも、

暗き深みのみなぞこの、
声も言葉もかよわねば、
昨日も今日も、かくて暮れゆく。


暮の鐘


灰色の雲かさなりて、
黄昏たそがれは死人のけわひ。
しく/\と泣きいる風は、
谷隈たにくまの底をはひ出で、
黄ばみたる木立はらひぬ。

冷やかな自然よ君と、
今日も又、かくて暮れゆく、
哀音の鐘の響きは、
痛みたる君が胸より、
るる、苦患くげんの声か。

うなだるる眼ひらきて
黄昏の空を仰げば
奥津城の岩のほとりの、
小山なすかばねの上に、
胸もどき声をきゝしる。

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
初出:くらがり「琉球新報」
   1909(明治42)年5月6日
   暮の鐘「琉球新報」
   1909(明治42)年5月6日
入力:坂本真一
校正:良本典代
2017年6月25日作成
青空文庫作成ファイル:
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