あらすじ
「信姫」は、謎に包まれた「信姫」への純粋で深い愛を歌った作品です。語り手は、信姫の行方を求めて様々な場所に足を運びますが、出会うのは「知らでや」という言葉ばかり。それでも、信姫への愛は揺るぎません。信姫への想いを胸に、語り手は旅を続け、やがて希望の光を見出すのです。深い愛情と切ない思念が織りなす、美しい歌の世界に引き込まれることでしょう。
君がはそもいづこか。
大み慈悲の御使女みつかひめ、――
光明ひかる皇子みこのいもうと、
『信』姫に懸想しぬ。
はつ夏のあさぼらけ、
薔薇いろ雲の花やぎ
あまそそり、吹く風に
たへなる香をも浮ぶるや、
いづこと教へよ、姫がありか。

黒檀こくたんの森わけて、
白檀びやくたんの峰越えて、
菱の葉うかべる沼にし
杖すすぐ阿闇黎に問ひ、
苔の花さく古井ふるゐ
阿伽を掬む尼に問へど、
怪しみがほのいらへに、
『知らでや』と過ぎぬれば、
脚絆はゞきぞあだにやぶれ朽つる。

ありか教へよ『しんひめ
君ならで誰につげむ、
年長う真暗まくらやみ
深淵ふかぶちみし清浄しやう/″\
敬虔けいけんのあはれ恋。
人の世馴れぬ子なれば
足悩おなゆみがちの旅路や、
しばしは君が膝に
帰依きえの額をうづめしめよ。

あなや、呼べど呼べと
山彦の音色ねいろさびて、
名もしらぬ朽木くちき
いまはた夕日落つるや、
わづらひのみのおびえに
逆だちて身ぶるひぬ、
この世はなれしきよらの
恋や、情や、理想や、
いつかむ日をし我は憂ふ。

かたちなき実相じつさう
恋ふるわがさがなれば
隠るる姫を、たゆまじ、
泣かでしもたづねなむ。
見よかなた、夢のごと
天華てんげさくをちの雲、
我霊わがれい勇めよ、遍照へんせう
光のうちに、大み慈悲の
姫が栄えの国ぞ見ゆる。

底本:「沖縄文学全集 第1巻 詩」国書刊行会
   1991(平成3)年6月6日第1刷
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年3月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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