あらすじ
日差しは、町のあちこちに溢れ、人々の生活を包み込みます。橋の下、床屋の裏、水車小屋、交番の陰、築地の上に建つ墓地、丘の上の洒落た家、女学校の寄宿舎の庭、どこを見ても日差しが燦燦と輝いています。それはまるで、旺盛な季節の洪水のように、小さな町を侵略し、昼間の凱歌を歌っているかのようです。日差しは、町のはずれの踏切にも、天守閣の跡地にも、どこまでも届き、一際青い空を背景に、鮮やかに咲き誇っています。床屋の裏の日まはり
水車小屋の日まはり
交番の陰の日まはり
頽れた築地の上に聳える
路ばたの墓地の日まはり
丘の上の洒落た一つ家
そのまた上の 女學校の 寄宿舍の
庭の日まはり
ああ日まはり
日まはり
それは旺んな季節の洪水
七月 この海邊の町を不意打して
この小さな町をとりかこみ 占領し
彼らの眞晝の凱歌をうたふ
日まはり
日まはり
彼方町はづれの踏切にも
此方天守の崩れた城址にも
ここかしこ 到るところに
いま一ひらの雲もない青空をささげて咲いた日まはり
日まはり
若き日のわが夢のかずかず
…………………………
しかはあれその花の一輪にだも
今日の日のわれが望みはしかざるなり
げにその花の一輪にだも
海の音彼方に高き日ざかりを
いまこの町をゆきゆきて
なほその花の下陰にわれは立つとも
了
底本:「三好達治全集第一卷」筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日発行
底本の親本:「定本三好達治全詩集」筑摩書房
1962(昭和37)年3月30日
入力:kompass
校正:杉浦鳥見
2020年9月28日作成
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