あらすじ
かつて深い悲しみを抱えていた「私」は、今はそれを忘れ、静かに過ぎ行く日々の中で、遠い過去の思い出を懐かしんでいます。かつて愛し、苦しんだ日々は、今はもうないのです。しかし、あの丘の木かげには、かすかな思い出が眠り続けています。かつてわが悲しみは かの丘のほとりにいこへり
五月またみどりはふかく 見よ
かなたに白き鳥のとぶあり
おのが身ははやく老いしか
この日また何にいそぐや
あてどなき旅のひと日の
夕ぐれの汽車のまどべに
かの丘はしづかに來り
かの丘は來りぬかづく
見よかしこに なつかしきかの細路は 木の間をいゆきめぐりたり
見よかしこに なつかしきかの細路は 木の間をいゆきめぐりたり
されど今はなし 今はなし 今はなし
かの遠き日の かずかずのわがもの思ひ
あはれ 今はなし
今はなし げに
あはれげに わが思出はかの丘の木かげに眠れり
あはれげに わが思出はかの丘の木かげに眠れり
了
底本:「三好達治全集第一卷」筑摩書房
1964(昭和39)年10月15日発行
底本の親本:「定本三好達治全詩集」筑摩書房
1962(昭和37)年3月30日
初出:「朝日新聞」
1940(昭和15)年5月6日
入力:kompass
校正:杉浦鳥見
2020年2月21日作成
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