あらすじ
厳しい寒風の中、凍てつく井戸で洗い物をしている女の姿が目に浮かびます。彼女は、過去のしがらみに縛られ、温順で、新しい時代への変化に戸惑いを隠せない様子です。しかし、一方で、新しい価値観を受け入れ、特権を得て自由に生きる女性も存在します。彼女たちは、家庭という温床の中で、夫に尽くし、豊かな生活を送っています。しかし、特権を持たない女性たちは、伝統的な価値観に縛られ、家庭に閉じ込められてしまいます。彼女たちは、自分自身を犠牲にして、家庭を守るという役割を担い、厳しい現実を受け入れざるを得ないのです。
すそを吹き上げる
北風は凍り
おおいのない、野天の井戸
洗い物をしぼる手はまっ赤
お前は温順
お前は過去の女
ぱっと冷いしぶきがとびかかる
私は空を仰いだ
くらくらと瞼をおおう
おもい冬空

生活はつづく
新しいものと
古いものが
ごっちゃになってどんでんがえり
新しいモラルの前では
或る女たちが特権を以て針を折り
ひしゃくを投げすて
昨日のくびきをふりほどく

そこには
栓をひねればお湯がとび出す
手をよごさずとも
夫に清潔なカラーをつけさせることが出来る
御馳走も思いのままに……
ゆたかな温床が用意されている

特権をもたない女たちは悲惨だ
自我を失い
個性を失い
文化に背を向けて
パチパチ炭火を煽って飯をたき
あかがね色の庖丁で
菜っぱをきざむ
己れをきざむ
古いわだちにすべりこみ
極めて家庭的な荊棘の冠をいただかねばならない

お前 だがほこりもて
家庭の女よ
やさしく、つよく
冬空の下で、洗え
洗え………
日本の女の無知と朦昧を――
(『詩人』一九三六年二月号に発表)

底本:「日本プロレタリア文学集・39 プロレタリア詩集(二)」新日本出版社
   1987(昭和62)年6月30日初版
底本の親本:「詩人」
   1936(昭和11)年2月号
初出:「詩人」
   1936(昭和11)年2月号
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年9月1日作成
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