あらすじ
「断片」は、銃殺された死体と、それを取り巻く群衆の混沌とした様子を描いた詩です。荒涼とした風景の中、死体の傷口から這い出る蛆虫、飛び回る蠅、そして不安げにうろつく人々の足。絶望と混乱が渦巻く光景が、鮮烈な言葉で表現されています。
ノスケ万歳!
 プロレタリアは武装を解かれた
     ――ゲオルグ・グロッス――

むくれあがった傷口から白い蛆虫は這い出した
蠅は飛び出した小腸を喰べている
 風が吹く
 転がっている銃殺死体!
ほんとうに射撃された心臓は歪んでいた
兵隊の靴の音は飢えた群衆の中から
 ピストル!
  奴らの銃剣は!
 切断された太陽の注ぐ光の下にひかり
おれらの脳髄を 心臓を指さしている
 掘立小屋から瘠せ細った手
充血した瞳は考えている
 バラバラになったかれらの死骸!
風が吹く
 蠅が飛ぶ
生ぐさい草いきれ
 ――奴らは爆弾を持っていたんだ
 ――ゆうべ 小銃の音が!
 ――どこに爆弾が!
 ――ビラがはってある
歩哨の肩はひろく 勝ちほこっている
 だれが殺されたんだ
 奴らさ!
 *******
放心した群衆の足は不安にうろついている
何処へ行こう!
 風が吹く
 蠅が飛ぶ
  転がっている銃殺死体!
 粉微塵の頭蓋骨!
死体になってかれらの瞳は一点をみつめている
  飛び散っている手!
おれは知っている
 太陽は切断された
しなびた心臓の傷は真赤にひかる。
(『無産詩人』一九二四年七月創刊号に発表 『陀田勘助詩集』を底本)

底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
底本の親本:「陀田勘助詩集」国文社
   1963(昭和38)年8月
初出:「無産詩人」
   1924(大正13)年7月創刊号
※本文末の編者による注記は省略しました。
入力:坂本真一
校正:雪森
2015年12月30日作成
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