あらすじ
激動の時代、街は群集と巡査の睨み合いによって騒然としています。窓ガラスが割れる音、歓声、怒号が交錯する中、人々は暴君の姿に怒りを爆発させます。しかし、主人公は群衆に同調しながらも、自分の居場所、自分の生活を捨てきれない葛藤を抱えています。雨のように降り注ぐ石、狂乱する人々の姿、銀座の夜は、主人公の心の内を映し出すかのように、不穏な光に包まれています。
いらだたしき一夜、
群集と巡査とは睨みあい、
街燈の瓦斯の灯も常より青し。

窓硝子のやぶるる音に、
喜びて叫ぶ声、恐ろしき鬨の声、
馳せちがう民衆と警官の剣鞘のおと。

哀れにも暴君のくるしむ姿、
われもまた群集ともろ共に手を打って
幾度か「バンザイ」を叫ばんとせしが、されど……

かの家にはわが椅子あり、
わがペンもあり、
かかる時なお忘れえざるわがパンの家。

雨のごとく石はふり、
群集は狂おしく鳴りわめく、
いらだたしき銀座の一夜。
(『近代思想』一九一三年三月号に発表)

底本:「日本プロレタリア文学集・38 プロレタリア詩集(一)」新日本出版社
   1987(昭和62)年5月25日初版
初出:「近代思想 第一卷第六號」
   1913(大正2)年3月1日発行
※初出時の署名は「緑葉」です。
※本文末の編者による注記は省略しました。
入力:坂本真一
校正:フクポー
2018年6月27日作成
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