あらすじ
下関から届いた電報の知らせで、懐かしい朝鮮漬の香りが漂い、待ち焦がれていた「貴公」がやってきます。「貴公」は天下の大将軍のような顔つきで、ぶ厚い手を差し出してきました。語り手は「貴公」を案内し、天神の鳩に豆を与え、懐かしい陽ざしの中で幼い日の記憶が蘇ります。そして、とんかつ屋という、ふるさとの風情が漂う場所へと案内し、そこには郷愁の香りが立ち込めていました。やがて「貴公」は帰っていきました。
下関でうつた電報から ひねもす
朝鮮漬(キムチ)のにほひがしてならない
そして 貴公はやつてきた
ムカヘニコナイトマヒゴニナルゾ

そして 貴公はやつてきた
天下大将軍(チヤンスン)のやうな顔をして
そして 貴公はやつてきた
ぶあつい手を にゆつとつき出した

そして 私は案内した
天神の鳩に豆をやつた
ふたりの背に 陽ざしがあたたかく
幼年の日が そこにあつた

そして 私は案内した
とんかつやの ふるぼけた暖簾(のれん)をくぐると
ふるさとの淳朴な風俗が
郷愁のやうに 湯気をたてて流れた
そして 貴公は帰つていつた
了

底本:「〈外地〉の日本語文学選3 朝鮮」新宿書房
   1996(平成8)年3月31日第1刷発行
底本の親本:「たらちねのうた」人文社
   1943(昭和18)年7月
※本文末の編者による語注は省略しました。
入力:坂本真一
校正:hitsuji
2019年4月26日作成
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