あらすじ
雪がちらつく中、子供たちは通学路である昌慶苑の石垣を急ぎ足で歩いています。大人になった「私」も子供たちと一緒に歩みを進め、雪が降りしきる風景を静かに見つめます。子供たちの頭には、雪がたわわに降り積もります。一年前に始まった戦争が、遠い海へと広がり、子供たちは戦争の残酷さを目の当たりにします。それでも、子供たちは懸命に生きています。雪がちらつく静かな冬の風景は、子供たちの成長と戦争の影を同時に映し出しています。
雪がちらついてゐる
しんみりしづかに 雪がちらついてゐる
そのなかを ききとして きみたちは
いもうとよ またいとこよ おとうとよ
まなびやへと急いでゐる
ながいながい 昌慶苑の石垣づたひ
雪がちらついてゐる

しんみりしづかに
雪がちらついてゐる ちらついてゐる
おとうとよ またいとこよ いもうとよ
それはふりかかる きみたちのかたに
たわわな髪の毛に ひひとして やぶれ帽子のうへに
十ねんわかくなつて わたくしも
きみたちと 足なみをそろへてゐる
雪がちらついてゐる

たしか きよねんの十二月八日にも
雪がちらついてゐた あれから一ねん
たたかひはパノラマのやうに
みんなみの海へひろげられていつた
そしてきみたちは ごはんのおいしさをおそはつた
またいとこよ いもうとよ おとうとよ
きみたちのうへに 雪がちらついてゐる

雪がちらついてゐる
ながいながい 昌慶苑の石垣づたひ
かくも 季節のきびしさにすなほなきみたちに
あへてなにをか いふべき言葉があらう
雪がちらついてゐる しんみりしづかに
いもうとよ またいとこよ おとうとよ
雪がちらついてゐる きみたちの成長のうへに
ひひとして 雪がちらついてゐる
了

底本:「〈外地〉の日本語文学選3 朝鮮」新宿書房
   1996(平成8)年3月31日第1刷発行
底本の親本:「たらちねのうた」人文社
   1943(昭和18)年7月
初出:「国民文学」
   1942(昭和17)年12月号
※本文末の編者による語注は省略しました。
入力:坂本真一
校正:hitsuji
2020年1月24日作成
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