あらすじ
五月の八日、徴兵が決定した日、ある大門の外では坊やがグライダアを飛ばしていました。坊やは、夢の中で戦闘機に乗り、青空高く舞い上がり、お寝小便をしてしまうほどです。その光景を、詩人は複雑な思いで見つめていました。坊やの無邪気な姿と、戦争の影が重なり合う、切ない瞬間です。とある大門のそとで ひとりの坊やが
グライダアを飛ばしてゐた
それが 五月の八日であり
この半島に 徴兵のきまつた日であることを
知らないらしかつた ひたすら
エルロンの糸をまいてゐた
やがて 十ねんが流れるだらう
すると かれは戦闘機に乗組むにちがひない
空のきざはしを 坊やは
ゆんべの夢のなかで 昇つていつた
絵本で見たよりも美しかつたので
あんまり高く飛びすぎたので
青空のなかで お寝小便した
ひるさがり
とある大門のそとで ひとりの詩人が
坊やのグライダアを眺めてゐた
それが 五月の八日であり
この半島に 徴兵のきまつた日だつたので
かれは笑ふことができなかつた
グライダアは かれの眼鏡をあざけつて
光にぬれて 青瓦の屋根を越えていつた
了
底本:「〈外地〉の日本語文学選3 朝鮮」新宿書房
1996(平成8)年3月31日第1刷発行
底本の親本:「たらちねのうた」人文社
1943(昭和18)年7月
初出:「国民文学」
1942(昭和17)年7月号
※本文末の編者による語注は省略しました。
入力:坂本真一
校正:hitsuji
2019年8月30日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(https://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。