あらすじ
失われた幸福を求めて、かつての白堊の城へとたどり着いた主人公は、荒涼とした野辺で敵と遭遇します。敵は、化猫草の穂がゆらゆらと揺れる中で、何かの追憶を笑いながら見つめています。敵の正体は明かされませんが、その笑声は、主人公の心の奥底に深く傷を刻み、忘れかけていた悲しみを呼び覚ますのです。ふたたび白堊の城は現はれ 風のやうに消えてしまつた。
人夫よ はやく夏草を刈りつくせ
狼火をあげよ 烟を空にたなびかせよ
空想の陣幕を野邊にはつて
まぼろしの宴樂をほしいままにせよ。
ああこのばうばうたる白日の野邊を訪ねて行つても
むかしの失はれた幸福に出逢ひはしない。
大風の吹く城の向うで
化猫草の穗のゆらゆらとうごいてゐて
なにものか
かなしい追憶の敵が笑つてゐる。
了
底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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