あらすじ
春の息吹が感じられる風景の中、主人公は故郷を離れようという強い思いを抱いています。遠くに見える雪景色、麦の芽、煉瓦造りの建物、そして監獄署裏の林から聞こえる鳥の鳴き声…。主人公の心の内は、怒りと絶望、そして何とも言えない寂しさで満たされています。彼は、故郷への未練と、そこから逃れたいという相反する感情に揺れ動き、苦悩しているのです。
なたねなの花は川邊にさけど
遠望の雪
午後の日に消えやらず
寂しく麥の芽をふみて
高き煉瓦の下を行く

ひとり路上に坐りつつ
怒りに燃え
この故郷ふるさとをのがれいでむと
土に小石を投げあつる
監獄署裏の林より
鶫ひねもす鳴き鳴けり
(滯郷哀語篇より)

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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