あらすじ
古びた盃に出会った「私」は、その美しさに見入ります。表面には龍が雲を吐き出し、神々しい秘密が隠されているようにも見えます。一方、裏面には哀しげな伶人の姿が刻まれ、工匠の怨念までも感じられます。盃は、長い年月を経て深みのある色合いを帯び、持ち主の過去を物語っているかのようです。「私」は、この古盃に愛着を感じ、持ち帰ろうと決意します。
小人若うて道にんじ
走りて隱者を得しが如く
今われ山路の歸さ來つつ
木蔭にかたよき汝をえたり。
表面おもては蛟龍雲をいて
神有じんうの祕密をそめて見るや
裏面うらには伶人ぬかをたれて
物思ものもひ煩ふなよび姿
才華悧悧たるまなざしには
工匠たくみうらみもこもりけんよ。
こは君逸品いつぴん古色ありと
抱いて歸れば有情なりや
味よきしづくの淺紫せんしなるに
け高き千古の春を知りぬ。

底本:「萩原朔太郎全集 第三卷」筑摩書房
   1977(昭和52)年5月30日初版第1刷発行
   1986(昭和62)年12月10日補訂版第1刷発行
入力:kompass
校正:小林繁雄
2011年6月25日作成
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