あらすじ
大正八年の冬、島崎先生から「爪」という処女作への賛辞を受けた著者は、暮れから春にかけて、熱海へ一人旅に出かけます。鞄の中には、原稿用紙が大切にしまわれています。そこには、新たな創作への熱い思いが秘められていました。旅先での出来事、出会った人々、そして何よりも、自身の心の内側が、静かな熱海の地で大きく変化していく様子が、静かに、そして力強く描かれています。
 大正八年の春書いた「爪」といふのが処女作であり同年の十二月号に「十三人」といふ同人雑誌に載り、それが偶然にも島崎先生より讃辞を頂いたことに就いては先生も或る文章の中に誌したので省略するが、それが十二月のことであり、日本橋の或る商店に寄食してゐた折から、私は暮から春の休みへかけて、秘かに原稿紙などを鞄に入れてひとりで熱海へ赴いたことを憶ひ出す。

底本:「牧野信一全集第六巻」筑摩書房
   2003(平成15)年5月10日初版第1刷
底本の親本:「若草 第十二巻第一号(新年号)」宝文館
   1936(昭和11)年1月1日発行
初出:「若草 第十二巻第一号(新年号)」宝文館
   1936(昭和11)年1月1日発行
※底本編集時に付されたと思われる、表題冒頭の「●」は省きました。
※「処女作の新春」と題したアンケートへの、回答です。
入力:宮元淳一
校正:門田裕志
2011年9月30日作成
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