あらすじ
ある少年が、理科の先生からカイコを譲り受け、飼育を始めることになります。カイコの世話を通して、少年は周りの人たちと触れ合い、自然の力強さや命の尊さを感じていくのです。しかし、カイコを育てることは容易ではありません。少年は、試行錯誤を繰り返し、時には困難に直面しながらも、懸命にカイコと向き合います。やがて、少年はカイコから大切なことを学び、成長していくのでした。
 泉(いずみ)は、自分(じぶん)のかいこが、ぐんぐん大(おお)きくなるのを自慢(じまん)していました。にやりにやり、と笑(わら)いながら、話(はなし)を聞(き)いていた戸田(とだ)は、自分(じぶん)のもそれくらいになったと思(おも)っているので、おどろきはしなかったが、誠(せい)一は、ひとり感心(かんしん)していました。お母(かあ)さんが、きらいでなければ、自分(じぶん)もかいこを飼(か)いたいのです。なんでお母(かあ)さんは、あんな虫(むし)が怖(こわ)いのだろう。お母(かあ)さんや、妹(いもうと)が、かわいい顔(かお)をしているかいこを、気味(きみ)わるがっているのが、不思議(ふしぎ)でたまらなかったのであります。そこへ、ちょうど理科(りか)の長田先生(おさだせんせい)が通(とお)りかかられました。
「君(きみ)たち、なにをしているね。」と、みんなの顔(かお)を見(み)て笑(わら)っていられたのです。
「おかいこの話(はなし)をしていたのです。先生(せんせい)、僕(ぼく)のおかいこは大(おお)きくなりました。」と、泉(いずみ)が、いいました。
「そうか、学校(がっこう)のと、どっちがいい繭(まゆ)を造(つく)るかな。」
「競争(きょうそう)するといいや。」と、戸田(とだ)がいいました。
「君(きみ)も、飼(か)っているのかね。」
「飼(か)っています。」
 ひとり誠(せい)一がだまっているので、先生(せんせい)は誠(せい)一の顔(かお)をごらんになって、
「南(みなみ)、おまえは。」と、お聞(き)きになりました。
 誠(せい)一は、こないだ先生(せんせい)がみんなにかいこを飼(か)ってみるようにおすすめなさったのを覚(おぼ)えています。自分(じぶん)だけ飼(か)わぬと答(こた)えるのは、なんだか理科(りか)に対(たい)して、不熱心(ふねっしん)に思(おも)われはせぬかと考(かんが)えたので、
「僕(ぼく)、かいこを飼(か)いたいのですけれど、かいこがないのです。」といいました。
「ほんとうに飼(か)うなら、学校(がっこう)のを四、五匹(ひき)あげよう。あとからきたまえ。」といって、先生(せんせい)は、誠(せい)一の頭(あたま)をぐりぐりとなでて、彼方(あっち)へいってしまわれました。三人(にん)は先生(せんせい)の後(あと)を見送(みおく)っていましたが、たがいに心(こころ)の中(なか)でやさしい先生(せんせい)だと思(おも)ったに、ちがいありません。
「じゃ、みんなで、競争(きょうそう)しようか。」と、泉(いずみ)が、いいました。
「いいとも。」と、戸田(とだ)が、答(こた)えました。
 まったく経験(けいけん)のない、そして、どうするかも知(し)らない誠(せい)一は、すぐに返事(へんじ)ができなかったのです。
 誠(せい)一は、
「むずかしいだろうね。」と、心(こころ)もとなさそうに、いいました。
「僕(ぼく)、よく教(おし)えてあげるよ。お菓子(かし)の空(あ)き箱(ばこ)と、あとでわらがあればいいんだよ。」と、戸田(とだ)が、勇気(ゆうき)づけてくれました。
「それに、桑(くわ)の葉(は)がないのだが。」
「桑(くわ)の葉(は)なら、僕(ぼく)、明日(あした)学校(がっこう)へ持(も)ってきてあげる。びんの中(なか)へ水(みず)を入(い)れてさしておきたまえ。」と、泉(いずみ)が、教(おし)えました。

 誠(せい)一は、先生(せんせい)が、大(おお)きな桑(くわ)の葉(は)の上(うえ)へ、かいこを七匹(ひき)ばかり、のせて渡(わた)してくだされたのをありがたくいただきました。さあこれをどうして持(も)って帰(かえ)ったらいいだろう。紙(かみ)もなかったので、葉(は)の上(うえ)にのせたまま、それを手(て)のひらで支(ささ)えて、そろそろ歩(ある)いて、学校(がっこう)の門(もん)から一人(ひとり)出(で)たのであります。
 うすい、白雲(しらくも)を破(やぶ)って、日光(にっこう)はかっと町(まち)の建物(たてもの)を照(て)らしていました。車(くるま)が通(とお)ります。自転車(じてんしゃ)が走(はし)っていきます。そのあわただしい景色(けしき)に心(こころ)を奪(うば)われるでもなく、誠(せい)一は、ゆっくり、ゆっくり、おかいこを見守(みまも)りながら、道(みち)を歩(ある)いてきました。町(まち)の人々(ひとびと)は、なんだろうと思(おも)って、誠(せい)一の手(て)をのぞくものもありました。
「やあい、おかいこをあんなことして持(も)っていくやあい。」と、笑(わら)っている子供(こども)もありました。いつもなら、十五分(ふん)ぐらいで帰(かえ)れるのに、三十分(ぷん)あまりもかかって、やっと我(わ)が家(や)の門(もん)が目(め)にはいったのです。
「お母(かあ)さんが、いけないといって、しかりはしないかなあ。」と、誠(せい)一は、ちょっと心配(しんぱい)になりました。
「誠(せい)ちゃん、たいそうおそかったですね。」
 お母(かあ)さんは、そうおっしゃいました。
「先生(せんせい)から、おかいこをもらってきたのだよ。」
 誠(せい)一は、先生(せんせい)からといったら、お母(かあ)さんは、許(ゆる)してくださりはしないかと思(おも)って、先生(せんせい)という語(ご)に力(ちから)を入(い)れたのです。
「お母(かあ)さんは、はだか虫(むし)がきらいなのを知(し)っているでしょう。なんでそんなものをもらってきたのですか。」と、お母(かあ)さんは、おっしゃいました。
「生糸(きいと)は、日本(にっぽん)の大事(だいじ)な産業(さんぎょう)だって、それで先生(せんせい)がみんなに飼(か)ってごらんとおっしゃったのです。かいこはちっともこわくもなんともないのに、お母(かあ)さんがこわがるのは、お母(かあ)さんが、よわ虫(むし)だからだろう。」と、誠(せい)一が、いいました。
「ほんとうにそうですね。じゃ、私(わたし)の目(め)につかないところに置(お)いておくれ。」
 誠(せい)一は、お母(かあ)さんがそういったので、いくらか安心(あんしん)しましたが、おかいこをどこへ置(お)いたらいいだろう。
「お母(かあ)さんの目(め)につかないところって、どこかなあ。」
 妹(いもうと)といっしょに勉強(べんきょう)するへやに置(お)くことはできませんでした。妹(いもうと)がやはりお母(かあ)さんと同(おな)じく、虫(むし)がきらいだからです。
「物置(ものおき)にしようか、あすこは、暗(くら)くて、風(かぜ)がよく通(とお)らないし。」と、考(かんが)えているところへ、学校(がっこう)で約束(やくそく)した、戸田(とだ)がやってきました。
「先生(せんせい)からいただいたおかいこをお見(み)せよ。」
「こんなんだ。」
 誠(せい)一は、もうしおれかかった桑(くわ)の葉(は)の上(うえ)にのっているかいこを見(み)せました。
「大(おお)きいんだね。もうじき上(あ)がるんじゃない。僕(ぼく)のは、こんなに大(おお)きくないよ。」
「先生(せんせい)だから、うまいんだろう。」
「早(はや)く、お菓子(かし)の空(あ)き箱(ばこ)を持(も)っておいでよ。」
 誠(せい)一は、お菓子(かし)の空(あ)き箱(ばこ)を出(だ)しました。また近所(きんじょ)の米屋(こめや)へ走(はし)っていって、わらももらってきました。戸田(とだ)は、かいこを飼(か)う箱(はこ)を一つ、まぶしを一つ造(つく)ってくれました。
「ここらに、桑(くわ)の木(き)はないのかい。」
「君(きみ)のうちにあるの。」
「僕(ぼく)のうちのは、縁日(えんにち)で買(か)ってきた苗木(なえぎ)だよ。」
「ここらに桑畑(くわばたけ)がないんだ。」
「あとで、さがしておいでよ。こう細(こま)かくきざんでやるのだ。」

 戸田(とだ)が、帰(かえ)ってしまった後(あと)でした。
「誠(せい)ちゃん、こんなところに、おかいこを置(お)いては、かわいそうじゃありませんか。風(かぜ)の通(とお)る涼(すず)しいところがいいではありませんか。」と、物置(ものおき)へはいって、石炭(せきたん)を出(だ)していられたお母(かあ)さんが、かいこの箱(はこ)を見(み)つけておっしゃいました。
「お母(かあ)さんの、見(み)えないところといったんでしょう。」
「あんたのおへやに置(お)きなさい。」
「みよ子(こ)がいやだというのだもの。」
「あの子(こ)も、私(わたし)ににたのですね。そんならお座敷(ざしき)に置(お)きなさい。」
「え、お座敷(ざしき)に置(お)いていいの。」
「ちらかさないように、下(した)になにか敷(し)いてね。」
 お母(かあ)さんが、そうおっしゃると、誠(せい)一はうれしかったのです。やはりお母(かあ)さんは、やさしいなと感(かん)じたのです。
 門(もん)の外(そと)へ出(で)ると、西(にし)の空(そら)が赤々(あかあか)としていました。とみ子(こ)さんや、よし子(こ)さんや、勇(ゆう)ちゃんたちが、遊(あそ)んでいました。
「どこかに、桑(くわ)の木(き)がないか知(し)らない。」
「おかいこにやるの。」
「うん、先生(せんせい)から、おかいこをもらってきたけれど、桑(くわ)の葉(は)がなくて困(こま)っているのだ。」
「僕(ぼく)に見(み)せておくれよ。」と、勇(ゆう)ちゃんが、いいました。
「私(わたし)、知(し)っているわ。原(はら)っぱにあってよ。」と、とみ子(こ)さんが、いいました。
「どこの原(はら)っぱに。」
「土管(どかん)の置(お)いてある、原(はら)っぱに。」
「ほんとう。僕(ぼく)、桑(くわ)の木(き)なんか見(み)なかったがなあ。」
「あってよ。おしえてあげましょうか。」と、とみ子(こ)さんは、真(ま)っ先(さき)になって、原(はら)っぱの方(ほう)へ駈(か)け出(だ)しました。あとからみんながつづいたのです。
 原(はら)っぱの片(かた)すみの方(ほう)は、草(くさ)の茂(しげ)ったやぶになっていました。そこへは、近所(きんじょ)の人(ひと)たちが、よく空(あ)き俵(だわら)や、ごみなどを捨(す)てるのです。そのやぶの中(なか)をさして、
「ほら、あの木(き)がそうよ。」と、とみ子(こ)さんがいいました。そこには、青々(あおあお)とした、一本(ぽん)の木(き)が、夕日(ゆうひ)の光(ひかり)を浴(あ)びていました。
「あれ、桑(くわ)の木(き)かしらん。」
「そうよ。」
 誠(せい)一は、やぶの中(なか)へはいっていきました。いつか、ここで、ねこが子(こ)を産(う)んだことがあります。
「ねこが、ここで子(こ)を産(う)んだね。」
「あのねこは、死(し)んじゃったよ。」と、勇(ゆう)ちゃんが、いいました。誠(せい)一は、白(しろ)と黒(くろ)の、あわれなねこの姿(すがた)が目(め)に浮(う)かんだのでした。彼(かれ)の後(あと)について勇(ゆう)ちゃんも、とみ子(こ)ちゃんも、よし子(こ)さんもはいってきたのです。
「ほんとうに、桑(くわ)の木(き)だ。」
「赤(あか)い実(み)がなっているわ。」
「ここにも。」
 みんなが、わあわあいっていると、すぐあちらの家(いえ)のおばさんが、生垣(いけがき)の間(あいだ)から、こちらをのぞいて、
「みんな葉(は)をとらないでください。私(わたし)の家(うち)にも、おかいこがありますからね。」といいました。
 こんなにたくさん葉(は)があるのにと思(おも)って、誠(せい)一は、へんな気持(きも)ちがしたが、
「すこししか、とりませんよ。」と、答(こた)えました。子供(こども)たちは、また、草(くさ)を分(わ)けて、原(はら)っぱの広々(ひろびろ)としたところへもどると、
「いやなおばさんだね。」と、とみ子(こ)さんが、いいました。
「やな、ばばあだな。」と、勇(ゆう)ちゃんが、いって、みんなは、赤(あか)い屋根(やね)を見上(みあ)げました。

 翌日(よくじつ)、学校(がっこう)へいくと、泉(いずみ)はしんせつにびんの中(なか)へ桑(くわ)の枝(えだ)をさして、持(も)ってきてくれました。
「こんど、僕(ぼく)の家(いえ)へ取(と)りにおいでよ。自転車(じてんしゃ)に乗(の)ってくれば、わけがないだろう。」といいました。
 その桑(くわ)の葉(は)はつやつやとして、色(いろ)が黒(くろ)く、厚(あつ)くて、ほんとうにうまそうです。こんな葉(は)を食(た)べているおかいこは、きっとよくふとっているだろう。そして、いい繭(まゆ)を造(つく)るにちがいない。競争(きょうそう)は、泉(いずみ)の勝(か)ちかもしれないと、誠(せい)一は思(おも)いました。
 学校(がっこう)の帰(かえ)り道(みち)で、戸田(とだ)といっしょになったのです。
「君(きみ)のところの桑(くわ)の葉(は)も、こんなに大(おお)きくて、おいしそうかい。」と、誠(せい)一は、たずねました。
「まだ、木(き)が小(ちい)さいからね。」
「僕(ぼく)は、原(はら)っぱに生(は)えている桑(くわ)の木(き)の葉(は)を取(と)ってきたけれど、かたくて、おいしくなさそうだ。」
「それは、こやしを、やらないからだよ。」
「これは、こやしがきいているんだね。」
「そうさ。」と、戸田(とだ)は、なぜかくすくす笑(わら)いました。
「僕(ぼく)、毎朝(まいあさ)、自転車(じてんしゃ)にのって、もらいにいこうかな。」
「泉(いずみ)の家(いえ)の前(まえ)は、桑畑(くわばたけ)なんだぜ。だから、すこしばかり取(と)ったって、かまわないのさ。」
「泉(いずみ)の家(いえ)から、火葬場(かそうば)が近(ちか)いんだってね。」と、誠(せい)一が聞(き)きました。
「だから桑(くわ)の木(き)のこやしに火葬場(かそうば)の灰(はい)をやるんだよ。」
「えっ、火葬場(かそうば)の灰(はい)をやるの。」
「いってみたまえ、根(ね)のところが白(しろ)くなってるから。」
「僕(ぼく)、もういくのをよした。」
「どうして。」
「だって、気味(きみ)がわるいもの。」
 誠(せい)一には、手(て)に持(も)っている桑(くわ)の葉(は)の光(ひかり)が、急(きゅう)に普通(ふつう)とちがっているように感(かん)じられたのです。その葉(は)は捨(す)てなかったけれど、それからは、やはり原(はら)っぱへいって、桑(くわ)の葉(は)を取(と)ってきました。
 ある日(ひ)、やぶのところで、十(とお)ばかりの女(おんな)の子(こ)と、八つばかりの男(おとこ)の子(こ)が、桑(くわ)の木(き)の方(ほう)に向(む)かって立(た)っていました。とんぼを捕(と)るのでもなければ、また、きちきちを捕(と)るようなようすもなかったのです。
「なにしているの。」と、不思議(ふしぎ)に思(おも)って、誠(せい)一は、聞(き)きました。
「桑(くわ)の葉(は)を取(と)りにきたの。」
「どこから。」
「私(わたし)の家(いえ)は、あの赤(あか)い屋根(やね)のお家(うち)よ。」
 誠(せい)一は、いつかみんな葉(は)を取(と)ってはいけないといった、おばさんの家(いえ)だと思(おも)いました。
「おかいこをたくさん飼(か)っているの。」
「五十匹(ぴき)ばかりいるの。」
「たくさんいるんだね。」
「もう、そろそろ上(あ)がりかけているわ。」
「早(はや)いなあ、僕(ぼく)も桑(くわ)の葉(は)を取(と)りにきたのさ。」と、誠(せい)一がいうと、
「大(おお)きなへびがいるよ。」と、男(おとこ)の子(こ)が、いいました。
「どこに?」と、誠(せい)一はびっくりしました。
「私(わたし)が、学校(がっこう)の帰(かえ)りにここを通(とお)ると、大(おお)きなへびがあすこへはいっていったのよ。」
 女(おんな)の子(こ)が、そういうのを聞(き)いて、誠(せい)一もおそろしくなりました。桑(くわ)の木(き)を見(み)れば、摘(つ)んでも、摘(つ)んでも、伸(の)びる若芽(わかめ)が、風(かぜ)の吹(ふ)くたびになよなよとかがやいています。その葉(は)の間(あいだ)から、白(しろ)い枝(えだ)が見(み)えるのが、なんだかへびのからんでいるようにも見(み)えたのであります。誠(せい)一は、石(いし)や、土(つち)くれを拾(ひろ)って、やぶを目(め)あてに投(な)げていました。こうすれば、へびがおどろいてどこへか姿(すがた)をかくすからでした。
「お姉(ねえ)ちゃん、帰(かえ)ろうよ。」
「僕(ぼく)が、取(と)ってあげるから待(ま)っておいで。」
 誠(せい)一は、勇気(ゆうき)を出(だ)して、草(くさ)を分(わ)けてはいっていきました。桑(くわ)の枝(えだ)を折(お)ろうとすると、熟(じゅく)しきった赤(あか)い実(み)が、ぽとぽとと落(お)ちました。
「さあ、これを持(も)ってお帰(かえ)り。」
 誠(せい)一は、桑(くわ)の枝(えだ)を女(おんな)の子(こ)の手(て)に渡(わた)してやったのです。

 朝早(あさはや)く起(お)きた誠(せい)一は、いつになく忙(いそが)しそうでした。かいこが、いよいよ上(あ)がりかけたのです。学校(がっこう)へいってしまった後(あと)で、お母(かあ)さんがおへやへはいってみると、手紙(てがみ)が置(お)いてありました。
「まあ、なんでしょうか。」と、お母(かあ)さんは、笑(わら)いながら、開(あ)けてごらんになりました。
「お母(かあ)さん、おかいこが口(くち)から糸(いと)を出(だ)したら、まぶしに入(い)れてください。まぶしに入(い)れたのには、桑(くわ)をやらないでください。糸(いと)を出(だ)さないほかのには、桑(くわ)の葉(は)を細(こま)かくきざんでやってください。誠(せい)一より。」
 お母(かあ)さんは虫(むし)はきらいでしたけれど、子供(こども)のためには、怖(こわ)いとも思(おも)わず、なんでもしてやる気(き)になられました。そして、おかいこの前(まえ)へいって、一つ、一つ、しらべていられました。
了

底本:「定本小川未明童話全集 12」講談社
   1977(昭和52)年10月10日第1刷発行
   1982(昭和57)年9月10日第5刷発行
底本の親本:「赤土へ来る子供たち」文昭社
   1940(昭和15)年8月
※表題は底本では、「芽(め)は伸(の)びる」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
校正:酒井裕二
2017年4月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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