あらすじ
三四年前からの苦悩と葛藤を、断片的にではあるものの静かに見つめ、その思いを書き留めた記録です。著者はその記録を通して、一進一退を繰り返しながらも、着実に進むべき道を見出していくことを実感しています。この記録は、著者の内面を深く理解するための貴重な証となるでしょう。
 三四年前からいろいろに思ひ悩んだ記録の一つで感じ得たところのものを決してすつかり書き得たとは思はないが、断片的にも静観の心地には浸つてゐるつもりである。勿論この心地は容易に悟入することは出来ないもので、私などにしても、一進一退、わずかに寸を進めて尺を退くの愚を敢てする事の多いのを常に自ら憐んでゐるのである。しかし私に取つては、この記録は決して徒爾とじではなかつた。また偶然でもなかつた。行かなければならないところに自然に到達しつゝあつたのである。好いにしてもまたわるいにしても……。

大正七年十月九日
著者

底本:「定本 花袋全集 第二十四巻」臨川書店
   1995(平成7)年4月10日発行
底本の親本:「毒と薬」耕文堂
   1918(大正7)年11月5日発行
初出:「毒と薬」耕文堂
   1918(大正7)年11月5日発行
※底本における表題「序」に、底本の親本名を補い、作品名を「「毒と薬」序」としました。
入力:tatsuki
校正:hitsuji
2021年1月31日作成
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