あらすじ
神への強い祈りを込めた、中原中也の詩です。詩人は、世の中の欺瞞や人間の複雑な心理を知りながらも、それらに染まることなく、ただ純粋な心を持ち続けています。神への祈りは、まるで詩人自身の心の叫びであり、そこに込めた思いは、静かに、しかし力強く読者の心を揺さぶります。
神よ、私は俗人の奸策(かんさく)ともない奸策が
いかに細き糸目もて編みなされるかを知つてをります。
神よ、しかしそれがよく編みなされてゐればゐる程、
破れる時には却(かへつ)て速かに乱離することを知つてをります。

神よ、私は人の世の事象が
いかに微細に織られるかを心理的にも知つてをります。
しかし私はそれらのことを、
一も知らないかの如く生きてをります。

私は此所に立つてをります!……
私はもはや歌はうとも叫ばうとも
描かうとも説明しようとも致しません!

しかし、噫(ああ)! やがてお恵みが下ります時には、
やさしくうつくしい夜の歌と
櫂歌(かいうた)とをうたはうと思つてをります……
(一九二九・一二・一二)
了

底本:「中原中也詩集」角川文庫、角川書店
   1968(昭和43)年12月10日改版初版発行
   1973(昭和48)年8月30日改版13版発行
初出:「白痴群 第五號」東省堂
   1930(昭和5)年1月1日発行
入力:ゆうき
校正:きりんの手紙
2019年3月29日作成
青空文庫作成ファイル:
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