あらすじ
かつては、女性が日常的に甘いものを買うことを「買食ひ」と呼び、それは大きな非難の対象でした。しかし、時代は変わり、女性も社会進出し、一人でおやつを楽しむことは当たり前の光景になりました。戦後、食糧難から解放され、様々な菓子が店頭に並ぶようになりましたが、高価なため、昔のようにたくさん買い溜めすることは難しくなりました。現代の私たちは、必要な分だけ買って楽しむ「買食ひ」という新しい文化を手に入れたのです。戦争が終つて一二年は馬鈴薯とさつまいもがすべての甘味の代りになつて、それを来客に出しても喜んで食べてくれた。今は都内の菓子店がすつかり復興して、ありし日の如く和洋とりどりの菓子を売つてゐるが、これを買ふのは昔のやうに簡単にはゆかない。一個が十円、十五円、二十円、二十五円、三十円、五十円、(特別が百円)とすると、どんなけつこうなお菓子が並べであつたところで、それを沢山買つて来て、たとへば一週間二週間と昔のひとが喜びさうに何時までも貯へて置くわけにはゆかない。味は変らないにしても、そんな事をすれば一度の菓子代がどの位かさむか、一大事である。
そんなわけで私たちはいま「買食ひ」をやることになつた。その時入用なだけ買つてお茶のつまにし、お客にも出す、明日は明日の事である。家々の主婦たちもお互いの家庭の中のことをかれこれ批評しなくなつて、かれらもみんなそれぞれ買食ひをしてゐるのである。それから農村の人たちは主食を充分すぎるほど食べてゐるから、三食のほかに甘味を必要としないさうである。また買食ひも、田や畑や竹藪の中ではなかなか用が足りないことも確かである。
了
底本:「燈火節」月曜社
2004(平成16)年11月30日第1刷発行
底本の親本:「燈火節」暮しの手帖社
1953(昭和28)年6月
入力:竹内美佐子
校正:伊藤時也
2010年10月14日作成
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