あらすじ
主人の命を受け、矢部の家へ手紙を届けることになった小僧。使賃として牡丹餅をもらいますが、主人から「途中で食べないように」と念を押されます。小僧は、誰も知らない場所に隠して置こうと、知恵を絞ります。しかし、その様子を見ていた主人は、小僧の思わぬ行動に驚き、いたずら心からある行動に出ます。小僧が家に帰り、牡丹餅を食べようとすると、そこには予想外の光景が待ち受けていました。
 主「定吉(さだきち)や。定「へえお呼びなさいましたか。主「此(こ)の手紙を矢部(やべ)の処(ところ)へ持(も)つて参(まゐ)れ、只(たゞ)置(お)いて来(く)れば宜(い)いんだよ返事は入(い)らないから、さア使賃(つかひちん)に牡丹餅(ぼたもち)を遣(や)らう。小「有(あり)がたう存(ぞん)じます。主「其処(そこ)で食(た)べるなよ、帰(かへ)つて来(き)てから食(た)べなさいな。小「へえ、夫(それ)でも是(これ)を置いて参(まゐ)りますと、栄(えい)どんだの文(ぶん)どんが皆(みんな)食(た)べて終(しま)ひます。主「夫(それ)では何処(どこ)か知(し)れない所へ隠(かく)して置け。小「へえ宜(よろ)しうございます…………何処(どこ)へ隠(かく)さうな、アヽ台所(だいどころ)へ置けば知れないや、下流(したなが)しへ斯(か)う牡丹餅(ぼたもち)を置いて桶(をけ)で蓋(ふた)をしてと、人が見たら蛙(かへる)になるんだよ、宜(い)いかえ人が見たら蛙(かへる)だよ、己(おれ)が見たら牡丹餅(ぼたもち)だよ。と密(そつ)と隠(かく)して出て行(ゆ)くのを主人が見て、アハヽ是(これ)が子供の了簡(れうけん)だな、人が見たら蛙(かへる)とは面白(おもしろ)い、一ツあの牡丹餅(ぼたもち)を引き出して、蛙(かへる)の生(いき)たのを入(い)れて置(おい)たら小僧(こぞう)が帰(かへ)つて来(き)て驚(おどろ)くだらうと、洒落(しやれ)た御主人(ごしゆじん)で、夫(それ)から牡丹餅(ぼたもち)を引出(ひきだ)して終(しま)つて、生きた蛙(かへる)を一疋(ぴき)投(はふ)り込(こ)んで置(お)きました。処(ところ)へ小「往(いつ)て参(まゐ)りました。主「大(おほ)きに御苦労(ごくらう)だつた、早く牡丹餅(ぼたもち)を食べな。小「へえ、有難(ありがた)う存(ぞん)じます、アヽ此所(こゝ)なら誰(だれ)も知りやアしない桶(をけ)で蓋(ふた)をしてあるから気(き)が附(つ)かない。と開(あ)けて見ると蛙(かへる)が飛(と)び出した。小「アレ、こりやアいけねえ、己(おれ)だよ、オイ/\、ホツ/\、然(そ)んなに飛ぶと餡(あん)が落ちるよ。
了

底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
   2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
   1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年6月19日作成
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