あらすじ
アメリカ横断鉄道ができたばかりの頃、人里離れたロッキー山脈の奥地を通る線路で、奇妙な出来事が起こったという。工事中の事故で命を落とした人々が、汽車が通るたびに山奥に現れ、悲鳴のような叫び声を上げるのだ。汽車の機関手は汽笛を鳴らして注意を促すが、彼らの姿は消えてしまい、代わりに耳をつんざくような叫喚だけが山々にこだまする。その恐ろしい光景を目の当たりにした乗客たちは、震えながら窓を閉め、恐怖に怯えていたという。 これも、矢張メリケン幽霊だ。合衆国の桑港から、国の中央を横切っている、かの横断鉄道には、その時、随分不思議な談もあったが、何分ロッキー山の山奥を通過する際などは、その辺何百里というもの、全く人里離れた場所などもあるので、現今でもあまり、いい気持のしないのである。この鉄道が、まだ出来た当時などは、その不完全な工事の為めに、高い崖の上に通っている線路が脱れたり、深い谿谷の間に懸っている鉄橋が落ちたりして、為めに、多くの人々が、不慮の災難に、非命の死を遂げた事が、往々にあったのだが、その頃に、其処を後から汽車で通過すると、そんな山の中で、人家の無い所に、わいわいいって沢山の人々が集っているのが、見えるのだ。機関手は再三再四汽笛を鳴らして、それに注意を与えるが、彼等は一向平気で、少しもそこから去らないから、仕方なしにまた汽車を動かして、其処を通って行くと、最早彼等の姿は、決して人の眼に映らないが、何処からともなく、嫌な声で、多くの人々の、悲鳴するような叫喚が、山に反響して雑然と如何にも物凄く聞えてくるので、乗客は恐ろしさに堪えず、皆その窓を閉切って、震えながらに通ったとの事である。その当時は、よくこんな出来事があったものだと、私は或米国人から聞いたのである。了
底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「怪談会」柏舎書楼
1909(明治42)年発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2008年9月24日作成
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