あらすじ
郊外のボロボロの家は、難破船のように傾いています。嵐の音が轟き、家は大破するかのように揺れます。しかし、その中で彼は不思議な心地良さを感じているのです。彼はかつて、山ほどの借金を抱えながら必死に商売をしていました。毎日が不安で、明日はどうなるかと怯えていました。今、彼は全てを失い、この破屋に住んでいます。一人ぼっちです。それでも、彼は諦めていません。この家が壊れるなら、壊れてしまえと、彼は闇の中で力強く抵抗するのです。しかし今彼は破産してしまって、郊外の破屋に棲んでゐるのであった。女房も丁稚もゐなかった。なにくそ、大丈夫だ、この家が顛覆するなら、してみろと彼は魘えながら闇の中で力み返った。あたかも女房や丁稚がまだその家にゐるやうな錯覚で、老いた彼はまだ一つの張りを持ってゐた。
了
底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日初版発行
入力:蒋龍
校正:伊藤時也
2013年1月24日作成
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