あらすじ
津田真道は、故男爵西周氏との長く深い友情を振り返りながら、彼の人物像を語り始めます。西周氏との出会いは、蕃書調所教授手伝の時代まで遡り、その後も留学先まで共に過ごすなど、多くの貴重な時間を共有してきました。思想や哲学においては異なる道を歩んでいたものの、互いに深く尊敬し合い、激論を交わした日々は、津田真道の思想形成に大きな影響を与えたのです。西周氏の逝去を悼み、その功績を後世に伝えるために、津田真道は自身の思い出と深い感傷を込めて、この序文を書き記しました。
余ガ故男爵西周君ト相識リシハ、初メテ蕃書調所教授手伝並タリシ日ニアリ。爾来交情親善、曾テ調所内ノ一宇ヲ借リ君ト同居シ、又同シク下谷ニ住シ、後和蘭(オランダ)国ニ留学ノ日亦同シク霊田(ライデン)ニ住シ、霊田大学法学教授法学博士ヒツスセリング氏ニ就テ欧洲政学ノ要ヲ聞キ、余暇互ニ議論ヲ闘ハシタリ。但君ハカント派ノ哲学ヲ喜ビ余ハコムト氏ノ実学ヲ好メリ。故ニ円鑿方※(「木+吶のつくり」、第3水準1-85-54)、論相※(「りっしんべん+(匚<夾)」、第3水準1-84-56)(かな)ハサルノ憾(うらみ)ヲ免レザリキ。今余ガ唯物論ヲ唱フルモ其原ハ即此時ニ在リキ。爾来歳月ヲ経過セシコト茲ニ四十年。而シテ君今亡シ。嗣子紳六郎男、其伝ヲ携ヘ来リテ之ニ序セムコトヲ需(もと)ム。余之ヲ読ミテ其感ニ堪ヘス。即数言ヲ記シテ以テ之ヲ返ス。
  明治三十年十二月十日
津田真道
了

底本:「鴎外歴史文学集 第一巻」岩波書店
   2001(平成13)年1月30日発行
底本の親本:「西周伝」西紳六郎
   1898(明治31)年11月21日
初出:「西周伝」西紳六郎
   1898(明治31)年11月21日
※この作品は、「『西周伝』題字及び序跋」の題の下に底本に収録されている、山県有朋、細川潤次郎、西道仙、津田真道、加藤弘之の五名による序の一つです。表題「森林太郎「西周伝」の序」は、青空文庫の作業時に付けました。
入力:岩澤秀紀
校正:染川隆俊
2010年5月31日作成
2011年4月2日修正
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