あらすじ
絵を描くこと以外には何も考えられず、生活のことなど何もかもお構いなしです。若い頃から写生に熱中し、交通手段が不便な時代にも関わらず、何里も歩いて写生に出かけました。男たちと一緒に行動することも多く、まるで男のように精力的に活動していたのです。三十年ほど前、関雪さんと一緒に田舎へ行った際に、関雪さんが乗っていた駄馬を写生したことがありました。関雪さんのずんぐりした体格がよく表れているでしょう。熱心なことは誰方にも負けんつもりでおりますが、写生は若い時分からようしました。今のように乗物の便利な時代と違いますから、二里でも三里でも歩いて行くのです。ガタ馬車に乗るというても何処にもあるというわけでありませんさかえな。足拵えを厳重にして、男の方と一緒に行くのです。女はほかのお方もおいでやしたけれど、わたしのようではありまへんでした。もうまるで男と同じことです。ナニ負けるもんかちゅう気どしてなア、ホホホ、どこへでも男のお方と行きました。これは橋本はんの写生です。関雪さんですな。どこか田舎へ行ったときそこにいた駄馬に関雪さんが乗らはったところを、てんご半分に写生しといたのです。あの方のずんぐりしたところが、ちょっと似てますな。へえ、三十年前くらいになります。
了
底本:「青眉抄・青眉抄拾遺」講談社
1976(昭和51)年11月10日初版発行
1977(昭和52)年5月31日第2刷
初出:「美術評論」
1937(昭和12)年10月号
入力:川山隆
校正:鈴木厚司
2008年10月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。