「一晩、この街で過すことにしようかな?」
ふとさういふ考へが湧き出て来たが、心身共に不安定な今の自分の状態に思ひ及ぶと、やはり一時も早く東京に帰つた方がいいやうに思はれた。今夜の汽車に乗れば明朝は東京へ着く、懐中にある金はどうせ四五日のうちには使ひ果してしまふつもりでゐるが、遊ぶならやはり万事馴れた東京の方がいい――。眼を開くと、宿るに手頃な宿屋やホテルが二三窓外に飛び去るのが眼に入つたが、車を停める気持にもならなかつた。…………
了
底本:「定本 北條民雄全集 上巻」東京創元社
1980(昭和55)年10月20日初版
入力:Nana ohbe
校正:フクポー
2018年9月3日作成
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