あらすじ
短編小説を集めた本書は、著者が近作ばかりをまとめたため、感情のつながりが濃く、作品に対する客観的な評価が難しいと感じています。淡々と書かれたものもあれば、感情を率直に表現したものが多く、そのせいで、作品に対する怒りや不満が感じられる部分もあるかもしれません。著者は、自身の作品を習作的なものと捉え、今後の創作の方向性に悩んでいます。病気療養中の著者は、本書が自身の創作傾向を変える転換期になるのか、それとも現状維持なのか、じっくりと考えているところです。校正刷を一覧したところ、淡々と書き進めた作品もあるけれど、それよりも、勝手気儘に書きちらした作品の方が多い。言いたいことを端的に表現してしまいたかったのだ。もう少し、構想をねり、造形に努力した方が、よかったのかも知れない。だが、小説という形式に対し、何かしら怒りっぽく、心平らかでないものが、どこかにあったらしい。つまり、私小説的なエッセンスとでも言えるものを、随所にばらまく結果ともなった。
昔から私の作品は、だいたい習作的なものが多かったが、これらの作品もその例にもれない。将来はどうなることやら。
最近私は病を得て、当分静養、執筆を避けている。そのため、いろいろ考えることも多い。或るいは本書が、私の創作傾向の一転機となるかも知れないし、ならないかも知れない。もう少し考えてからのことだ。
了
底本:「豊島与志雄著作集 第六巻(随筆・評論・他)」未来社
1967(昭和42)年11月10日第1刷発行
初出:「山吹の花(限定版)」筑摩書房
1954(昭和29)年1月
入力:門田裕志
校正:Juki
2013年5月11日作成
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