あらすじ
明治二年、ある男が古着屋で蚊帳を購入しました。その夜、男は蚊帳の中で奇妙な体験をします。枕元に現れたのは、白地に覇王樹の模様が描かれた浴衣を着た女性の姿でした。男は気のせいと思いながらも、次の晩も、その次の晩も、同じ女性が現れることに不安を感じます。友人に相談すると、友人も同じ蚊帳で同じ体験をし、二人は蚊帳を元の古着屋へ返却することに。しかし、古着屋の店主は、この蚊帳は誰に売っても必ず五日後には返されてくるという、不思議な話を語るのでした。
 明治二年七月八日発行の明治新聞と云うのに、浜田藩の淀藤十郎と云うのが、古著屋ふるぎやからであろう、蚊帳かやを買って来て、それを釣って寝たところで、その夜の半夜よなか頃、枕頭へ女の姿があらわれた。それは白地に覇王樹しゃぼてんのような型を置いた浴衣ゆかたを著て、手に団扇うちわを持っていた。淀は気のせいだろうと思ってそのままにしていたところで、その翌晩もまたその翌晩もやはり女の姿があらわれるので、友人にその事を話すと、友人が其の蚊帳を持って往って釣った。と、友人の家でも同じような女の姿があらわれるので、蚊帳を買った家へ返しに往った。するとそこの主翁しゅじんが、
「どうも不思議ですよ、どこへ売っても、五日とたたないで返して来るのですよ」
 と云った。

底本:「伝奇ノ匣6 田中貢太郎日本怪談事典」学研M文庫、学習研究社
   2003(平成15)年10月22日初版発行
底本の親本:「新怪談集 実話篇」改造社
   1938(昭和13)年
入力:Hiroshi_O
校正:noriko saito
2010年10月20日作成
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