あらすじ
岸田國士は、毎月届く様々な演劇雑誌を批評しています。ソ連的な活気に満ちた「テアトロ」、評論陣が強化された「劇と評論」、杉野氏の蘊蓄が光る「音楽と演劇」など、それぞれの雑誌の特徴を的確に捉えながら、その内容を評価しています。特に「劇作」五月号に掲載された戯曲「湖心荘」の才能に期待を寄せ、一方で、同誌の同人座談会を批判するなど、率直な意見を述べています。また、東宝の宣伝雑誌「東宝」に掲載された小林一三氏の「問はず語り」について、その社長ぶりが面白いとしながらも、専門家の沈黙を疑問視するなど、辛辣なコメントも忘れていません。「テアトロ」はソヴイエート的活気とエスペラント風の超国境性に満ちた研究雑誌であるが、今月は三周年記念号を出してゐる。なかなか啓蒙的ではあるが、一方日本の新劇運動を強引に一色化しようとする気配が感じられる。
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「劇と評論」は時々調子が違ふので面喰ふ。近頃は評論陣を強化したやうに見える。「音楽と演劇」は杉野氏の薀蓄に聴くべく、スタニスラフスキイの「俳優修業」は好個の参考資料である。戯曲については、この雑誌あたりがもつと新風をもたらしてくれなければ淋しい。
「劇作」五月号の戯曲「湖心荘」は力作でしかも面白さうだ。今ついたばかりで二三頁しか読んでゐないが、いゝ才能の匂ひを嗅いだ。この雑誌は僕には縁の深い雑誌だが、今度の同人座談会は悪趣味だ。
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「東宝」といふ宣伝雑誌がある。毎月巻頭に小林一三氏が「問はず語り」といふ一文をのせてゐる、が凡そ妙なことを平然と云つてゐる社長ぶりが面白い。但しその配下にある専門家は黙つてゐていいのか。
了
底本:「岸田國士全集23」岩波書店
1990(平成2)年12月7日発行
底本の親本:「東京朝日新聞」
1937(昭和12)年5月15日
初出:「東京朝日新聞」
1937(昭和12)年5月15日
入力:tatsuki
校正:門田裕志
2009年11月12日作成
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