あらすじ
水上滝太郎は、過去の作品を振り返り、忌み嫌うほどに嫌悪感を抱いていると述べています。その中には、特に後悔の念が強く、再び世に出すことをためらっていた作品も含まれていました。しかし、再び同じ過ちを繰り返さないよう、自らを戒めるために、これらの作品を再び世に出す決意をしたのです。過去の自分を鞭打つことで、苦痛と喜びが混ざり合った複雑な感情を味わうという、著者ならではの表現が光る作品です。
 此の集收むるところの作品の過半は今日までに發表したる余の作品中最も厭ふべく忌むべきものとみづからおもへるところのものにしていづれは昨日の事の悔まれぬはなきが中にもかゝる作品をいだせし事は就中余の不快とするところなり。今改めて之を市に出すは若輩にして心動き易き自をして再びはかゝる悔なからしめんが爲め自を責むる訓戒の一助となさんとするに過ぎず。淺薄なる皮肉に安價なる慰安を求めてしかも自を宜しと思へりし昨日の己れを鞭たん事は余をして苦痛と歡喜とを相まじへたる一種の快感を味はしむ。
 乍末余は再びかゝる低級なる作品を出す事なきを確く信じて疑はざる事を附記す。(大正四年二月四日)

底本:「水上瀧太郎全集 九卷」岩波書店
   1940(昭和15)年12月15日発行
入力:柳田節
校正:門田裕志
2005年1月19日作成
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