あらすじ
芥川龍之介氏の輝かしい才能と人柄を惜しみ、泉鏡花は深い悲しみと敬愛の念を込めて、故人を偲びます。美しくも儚い文才、そして温かい人柄で多くの人を魅了した芥川氏の死を悼み、鏡花は彼の光が永遠に消えることのないことを切に願います。深い哀しみと切ない想いが、静かに読者の心を揺さぶります。
 玲瓏れいろう明透めいてつ、そのぶん、そのしつ名玉山海めいぎよくさんかいらせるきみよ。溽暑蒸濁じよくしよじようだくなつそむきて、冷々然れい/\ぜんとしてひとすゞしくきたまひぬ。倏忽たちまちにして巨星きよせいてんり。ひかり翰林かんりんきて永久とこしなへえず。しかりとはいへども、生前せいぜんをとりてしたしかりしときだに、そのかたちるにかず、そのこゑくをたらずとせし、われら、きみなきいま奈何いかんせむ。おもひ秋深あきふかく、つゆなみだごとし。つきて、面影おもかげゆべくは、たれかまた哀別離苦あいべつりくふものぞ。たかれいよ、須臾しばらくあひだかへれ、に。きみにあこがるゝもの、あいらしくかしこ遺兒ゐじたちと、温優貞淑をんいうていしゆくなる令夫人れいふじんとのみにあらざるなり。
 ことばつたなきをぢつゝ、つゝしん微衷びちうをのぶ。
昭和二年八月

底本:「鏡花全集 第二十八巻」岩波書店
   1942(昭和17)年11月30日第1刷発行
   1976(昭和51)年2月2日第2刷発行
※題名の下にあった年代の注を、最後に移しました。
入力:高柳典子
校正:門田裕志
2003年8月1日作成
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