あらすじ
戦後の世相を背景に、政治家の腐敗と、それを許容した妻たちの道義について深く考察した論考です。社会的地位と裕福さを手に入れる一方、夫の不正行為を見逃し、家族の幸せを犠牲にしてきた妻たちの責任を厳しく問う内容となっています。夫の不正行為をただ黙認するのではなく、積極的に声を上げ、家族と社会を守るための妻の道義とは何か、読者に問いかける力強い文章です。 モラルの問題は、婦人雑誌で精力的にとりあげられるテーマの一つである。けれども、モラルの対象とされているのは、おおまかにいって、若い世代の男女である。
昭電事件その他の、世界的な規模をもった政界腐敗の事実を知った私どもは、元大臣、各官庁の高官、その人々の道義の頽廃を痛感するとともに、その人々の妻の道義感がどんなに麻痺していたかということについておどろく。収賄の内容が味噌、醤油から洋服、食糧にいたるとき、どんな詭弁を弄しても、妻であり主婦である人が、それを知らなかったとはいえない。
役得という観念は、妻たちの満足感であったろう。社会的地位の高い証拠の不自由なさと、得意であったかもしれない。妻たちがおりにふれて、これでいいのですか、とくり返したら、夫たちの一生はこれほどの恥にまみれなかったかもしれない。子供達が学校へ行き、肩身のせまい思いをしないでもよかったかもしれない。
妻の道義は、貞操に関することばかりではない。母としての責任は、くつしたのつくろいだけのことではない。〔一九四八年十一月〕
了
底本:「宮本百合子全集 第十五巻」新日本出版社
1980(昭和55)年5月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十二巻」河出書房
1952(昭和27)年1月発行
初出:「東京民報」
1948(昭和23)年11月14日号
入力:柴田卓治
校正:米田進
2003年6月4日作成
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