あらすじ
白木蓮の花が咲き終わると、鮮やかな緑色の若葉が合掌するように伸びていきます。その姿は、緑の炎が燃え盛る小蝋燭を並べたようにも見えます。一方、紫木蓮は、明るい若葉の中に濃い紫の花を咲かせます。花が散ると、大きな葉が密集してしまいます。桜も、花が先に咲くものと、葉と一緒に花が咲くものがあるように、植物にはそれぞれの特徴があります。人間にも、花と葉のような二種類がいるように感じますが、それが何かは、まだはっきりとはわかりません。
 白木蓮は花が咲いてしまつてから葉が出る。その若葉の出はじめには実に鮮かに明るい浅緑色をしてゐて、それが合掌したやうな形で中天に向つて延びて行く。丁度緑の焔をあげて燃ゆる小蝋燭を点しつらねたやうにも見える。
 紫木蓮は若葉の賑かなイルミネーションの中から派手な花を咲かせる。濃い暗いやや冷たい紫のつぼみが破れ開いて、中からほんのり暖かい薄紫の陽炎かげろうが燃え出る。さうして花の散り終るまでにはもう大きな葉が一杯に密集してしまふ。
 桜でも染井吉野のやうに花が咲いてしまつてから葉の出るやうな種類が開花のさきがけをして、牡丹桜のやうな葉と一緒に花をもつやうなのが、少しおくれて咲くところを見ると、これには何か共通な植物生理的な理由があるらしい。
 人間でもなんだか、これに似た二種類があるやうな気がするが、何が「花」で何が「葉」だかが自分にはまだはつきり分らない。

底本:「花の名随筆4 四月の花」作品社
   1999(平成11)年3月10日第1刷発行
底本の親本:「寺田寅彦全随筆 第六巻」岩波書店
   1992(平成4)年5月
入力:もりみつじゅんじ
校正:多羅尾伴内
2003年4月28日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。